アナログレコードがCDより好ましく聴こえるのは、レコードのダメな点によって再生音が歪んだとしても、倍音成分の連続性を持ち、好ましい音質に変質するのでは無いか?という推論を「アナログレコードのここがダメ」の最後の部分で述べてきました。
この推論を裏付けるエミュレートできる様なソフトが無いか?ネットで検索してみたら「レコード固有の歪とノイズのほか、レコードの制作過程で加えられる圧縮を考慮することで、当時のレコードの音を再現しました。」という、 創造の館で開発された「Nostalgic Sound Converter」ソフトを見つけました。
早速、このソフトをダウンロードして試してみることにしました。
このソフトは下記からダウンロードできます。
開発者のYouYubeチャンネル 創造の館 Technical Report
「Nostalgic Sound Converter」ソフトについて
「Nostalgic Sound Converter」(以下NSCに略します)ソフトのインストールは、詳しくは前記ダウンロードページを参照してください。 Windowsにインストールして起動すると下のコントロール画面が開きます。
今回は、「レコードプレーヤ」と「真空管アンプ」の2つにレ点を入れてコンバートしました。 [Browse] ボタンをクリックして、コンバートしたい音源(wav,Flac,mp3)が入っているフォルダーを指定した後 [Run]ボタンを押すと、フォルダー内の音源が result フォルダーに夫々コンバートされます。
- レコードプレーヤに変換された音源は、元のファイル名に Record tone(80's) が追記されます。
- 真空管アンプに変換された音源は、元の元ファイル名に Tube tone(80's) が追記されます。
ピュアー音源(sin 1khz)をNSCでコンバートすると倍音成分がどの程度に?
ピュアー音源について
-20db sin 1khzのwav(48khz 24bit)ファイルをNSCでコンバートしてみます。 bit深度を24bitにした理由は量子化ノイズの影響を極力避けるためです。
ピュアー音源の生成は、WaveGeneを、スペクトル表示は、WaveSpectraを使用させて頂いています。
NSCでコンバート
ポイント
- Record-tone80sは、レコードのサーフェースノイズや倍音成分も(2波)重畳されレコードライクにエミュレートされていることが確認できました。(実際のテストレコード 1khz再生スペクトルは、下の「クリック 展開」で確認できます)
- Tube-tone80sは、複数の倍音成分が重畳されていることが確認できました。
「ドボルザークの新世界より第4楽章 Karajan指揮 BPO」をNSCでコンバートしてみました
1964年に録音された「ドボルザークの新世界より第4楽章 Karajan指揮 BPO」CDをFlacフォーマットでリッピングした音源をNSCで変換してみます。
Flac 16bit 44.1khz(CD音源)
(備考)
作曲者ドボルザークの没年1904年でレコードの発行年(CD面に印刷されているPマーク表示)が1964年であることから、当サイトの「パブリック・ドメイン 目安チェッカー」ツールで確認した結果、この音源はパブリック・ドメインに該当すると判断しています。 また、音源のファイルサイズが大きいのでネットのトラフィック環境が悪いと、上のプレーヤボタン▶を押しても再生が中々始まらない場合があります。
NSCでコンバート
NSCで出力された音源ファイルの先頭部分(237.8s)を周波数分析(グラフ化)してみました。(次節参照)
グラフ内のblueラインは、Record-tone80s(Flac)音源を示し 、brownラインは、Tube-tone80s(Flac)音源を示します。
NSC音源ファイルの周波数解析(グラフ化)
周波数解析(グラフ化)について
各々の音源ファイルをAudacityに取込み、周波数分析したい音声トラックを選択して 解析 > スペクトルの表示 を選択すると、ダイアログ(大量の音声が選択。。。。。最初の○○秒だけが解析されます。)が表示されOKをクリックします。 周波数解析画面が表示されるので、画面の右下にある「書き出し」ボタンをクリックすると、周波数とレベル(db)の値が入ったテキストファイルが出力されます。 出力されたテキストファイルを開き、全コピーした後、Numbers(又はEXCEL)にペーストしスペクトルをグラフ化しています。
スペクトル比較
CDオリジナル音源に対する絶対誤差
ポイント
絶対誤差は、NSCで変換した音声レベル(db)からCDの音声レベル(db)を引き算したものです。 新世界の第4楽章の先頭部分(237.8s)はオケのフォルテ領域で、周波数成分が多く含まれていますので、絶対誤差をグラフ化するとNSCの周波数特性(F特)を示すことになります。
このグラフから、CD音源に比較して
- Record-tone80sは低域がブーストされ高域の15khz付近から減衰していることが分かります。
- Tube-tone80sは、F特に若干のうねりが見られますが略フラットです。
NSCの音源を試聴して
Sony HAP-Z1ES HDDオーディオプレーヤにNSCで変換したFLACファイルを転送して、「我が家のB級オーディオ」で確認してみました。
何分、駄耳のため正しい評価になっているか自信がありませんがNSC音源を試聴比較して、
Record-tone80s音源はストリングスの高域が僅かですが減じている様に感じ、Tube-tone80s音源の方が音質的に好ましく感じました。
今回使用したCD音源は、SPARSコードADD でアナログ・マスターテープからCD化されているのでNSCでコンバートしても期待する音質の変化が少ないのかも知れません。 本来はデジタル・マスターからCD化されたSPARSコードDDDのCDをNSCでコンバートすると期待通りのレコードライクの好ましい音質に変貌するかも知れません。
最後に僭越ながら、レコードライク・エミュレーターは、プレーヤの低域共振やサーフェースノイズに重きを置いたSonyの「バイナルプロセッサー」があるようですが、倍音成分の歪に重きを置いているNSCソフトの方が理にかなっている様に思われます。 欲を言えば、カートリッジのクロストークに於ける逆相成分(詳しくは、ここをクリック)を加味したら音の広がりを感じられる様になるかも知れません。
NSCソフトの開発元「創造の館」に対しまして、YouYubeチャンネルのTechnical Reportを見ても判るとおり、オーディオに対する真摯なレポート姿勢に敬意を表するとともに「Nostalgic Sound Converter」ソフトの更なるアップデートを期待しています。