CDに比べてレコードには下に示す多くの欠点があります。 それでもレコードの音質が好まれる理由は何でしょうか?ネット上では納得のいく説明が見つかりません。 本記事では、CDと比較してレコードの音質が好ましく聴こえる要因を考察します。
アナログ・レコードがCDより劣っている点
- 低域共振(カートリッジとトーンアーム)が発生する
- 左右CHのクローストークはゼロにできない
- スクラッチ(プチ)ノイズが発生
- ターンテーブルの回転数偏差の問題
- イコライザー特性(RIAA)のミスマッチ
- レコードの内周にまつわる音質低下
- レコード再生の歪率(ハーモニクス)
「アナログ・レコードのここがダメ」の記事から引用
CD の主な弱点を理解する
レコードは音質的に多くの欠点がありますが、一方CDにもデジタルであるが故の弱点があります。 大きく言って、「CD音質の弱点」は2つに集約されます。
- サンプリング定理から、再生できる上限周波数が22.05khzで制限される。
対してレコードは、サンプリング定理は無く上限周波数は制限されない。 - ビット深度が16bitで量子化ノイズが存在し高域弱音部(ストリングス)で違和感を生じる。
対してレコードは、量子化ノイズは存在しない。
ネット上ではCDの弱点を根拠にレコードの方が音質的に優れていると言われることがありますが、本当でしょうか?
CDの弱点でレコードの方が好ましく聴こえるとは言い切れない事実
CDの弱点はそれほどウエイトが高くないかもしれません。 何故なら、アナログレコードをCDフォーマットにデジタイズした音源を聴くと、レコードサウンドとほぼ同等に聴こえるからです。 また、レコードサウンドと遜色のないCDも存在しています。
では何故、レコードの方がCDよりも好ましく聴こえるのでしょうか? CDの弱点以外にも好ましく聴こえる要因があるのでは無いか?と言う疑問が湧いて来ます。 次節で仮説を立ててみました。
アナログレコードの音質が好まれるのは何故?【仮説】
【 仮説 】
アナログレコードがCDより好ましく聴こえるのは、レコードのダメな点によって再生音が歪んだとしても、倍音成分の連続性を持ち、好ましい音質に変質するのでは無いか?
以降、この仮説への裏付けと考察を述べます。
例えば、ヴェルディのLA TRAVATA(椿姫)のLPレコードをMCカートリッジ(DENON DL-103R)で再生し、ハイレゾ収録(fs=96khz)した「乾杯の歌」のスペクトル動画を見てください。 この動画で分かることは、冒頭部分のストリングスに着目すると30khz以上の周波数成分が存在しているのが分かります。
一般論としては、レコードで再生できる上限周波数は15khz程度と言われており、多く見積もっても20khz程度と考えられます。 更にこのレコードは、1963年(61年前)にプレスされたもので、当時の録音機材の実力から考えて30khz以上の再生には無理がある様に思われます。 しかし、このスペクトルが30khz以上の周波数成分が存在しているということは、DL-103R特有のハーモニックス成分が加わっているためでは無いか? であるなら、可聴帯域内にも倍音が内在しアナログ特有の好ましい音質に変質する査証を示しているのかも知れません。
<「乾杯の歌」スペクトル 動画 >
カートリッジのハーモニックスが加わって再生帯域が広がる?という仮説の正しさを調べるには、CDをレコード化して、このレコードを再生した時、22.05khz以上の成分の存在が確認できれば、その正否を判断できる筈ですがその術がありませんでした。 しかし、次で説明する音展2022で「Lacquer Master Sound」を試聴する機会を得て、一歩踏み込んだ考察を行うことが出来ました。
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好ましく聴こえる考察 Lacquer Master Soundとの出会い
「Lacquer Master Sound」について
32bit 96khzのハイレゾマスターから、生のラッカー盤にダイレクトカッティングを行い Ortofon SPUカートリッジを用いたハイエンドプレーヤでラッカー盤をアナログ再生した後デジタイズ(24bit 96khz)配信を行うというシステムです。(OTOTEN(音展)2022のブログ記事はここをクリック)
Lacquer Master Soundを試聴して(感想)
音展2022・試聴会は、「①32bit 96khzのハイレゾマスター音源」と①の音源からラッカー盤を作成し「②ラッカー盤のアナログ再生をデジタイズした音源」を聴き比べるので、理想的な条件下でデジタルとアナログレコードの音質の違いが判る筈です。
聴き比べた結果、「②ラッカー盤のアナログ再生をデジタイズした音源」の高域が好ましく、更にカートリッジのクロストークがあるにも関わらず音の広がりも感じられるものでした。
つまり、ラッカー盤(アナログレコード)を再生することで、音質が(好ましい方向に)変質すると言うことに他ならないと思われます。
何故、アナログ(デジタイズ)音源の高域が聴きやすく音の広がりを感じるかについて、「アナログレコードのここがダメ」のデータから見た以下考察(推論)です。
- 高域の聴きやすさ:テストレコード(AD-1)の1khz正弦波をDL-103Rで再生すると、6khzまで整数倍のハーモニクスが観測されました。 このハーモニクスは、カートリッジ(DL103)特有の歪でカートリッジの音色を与えるものと考えられ、これが高域が聴きやすくなる要因ではないか?
- 音の広がり:「アナログレコードのここがダメ」の「3)クロストークの位相について」で述べた様に、カートリッジのクロストークに逆相成分が含まれているために「音の広がりが感じられる」のではないか?
Lacquer Master Sound のサンプル音源でスペクトル比較を行ってみました。
サンプル音源は、「Lacquer Master Sound」サイトに掲載されている「CD音源」とCD音源より作成した「Lacquer Master Sound」のサンプル音源をダウンロードさせて頂きました。 スペクトルで比較した音源(Flac 96khz 24bit ファイル)はCharade (from CD)と Charade (Lacquer Master Sound)です。
URL:https://www.cutting.mixerslab.co.jp/lms
point
1 各々のスペクトルから分かること
CDフォーマットで作成された「Charade (from CD)」のスペクトルは、22.05khzでハイカットされています。 この音源をラッカー盤にカッティングした後、該ラッカー盤をSPUカートリッジで再生しサンプリング周波数・96khzでデジタイズされた「Charade (Lacquer Master Sound)」のスペクトルは、本来ハイカットされ再生されない筈の22.05khz以上に赤枠で示す高域成分が加味されているのが分かります。
これは、Lacquer Master Soundのアナログ再生で使用されているカートリッジ(SPU Classic GE MK Ⅱ)のハーモニックス成分が加わって高域が拡張されているためと思われます。
point
2 サンプル音源を試聴して
ストリングスの音をフォーカスして試聴したところ、「CD音源・Charade (from CD)」の方は硬質で耳に付く音でしたが、「Charade (Lacquer Master Sound)」では、弦の音が伸びやかになり、好ましい音に変質している様に感じました。
これは、上のスペクトルで示されれたカートリッジ(SPU Classic GE MK Ⅱ)のハーモニックスやクロストーク成分が可聴帯域にも加わってアナログ特有の好ましい音質に変質する査証ではないか?と推察されます。
現在リリースされているLacquer Master Sound の中森明菜のアルバムは、アマゾンから購入できますここをクリックしてご参照ください。
考察のマトメ
CDよりもアナログレコードの音質が好まれる要因は、下の2つの要因で生じるものと考えられます。
- CDの弱点から生じる要因
CD音質は16ビットであるが故に量子化ノイズの影響があり得ること。(アナログ・レコードの量子化ノイズは皆無) - 仮説から検証された要因
アナログ・レコードは、特有の欠点を多々有するが、特にカートリッジのハーモニックスやクロストーク等によって聴感上 好ましい音質に変質すると思われること。
最後に、アナログレコードは、CDに対して多くの欠点を持っていますが、この欠点が好ましい音質に変質し再生装置毎に特有の個性を持つ(楽器の様な)音質になり、CD(デジタル)音質とは一線を画すものになると思われます。 更に付け加えるとLacquer Master Sound で使用されいるハイエンド・ビンテージ級のカートリッジなどで再生すればより好ましい音質に変容することは想像に難くありません。