これまでの当ブログ記事(テストレコードなどのブログ)の知見を通して、アナログ・レコードが音質的に不利な点が多々見つかりました。
アナログレコードの音質を好ましく思っている一人で、本当はあまり言いたくは無いのでが、事実は事実として、ここでアナログ・レコードがCD音質に対して不利な点をまとめてみたいと思います。
(更新履歴)
2022/6/21 追記:『第3章 それでもアナログレコードの音質が好ましいのは何故?』に「Lacquer Master Sound(ラッカーマスターサウンド)」を追記しました。 ここをクリックすると追記箇所に移動します。
レコードがダメな点
INDEX・レコードがダメな点
カートリッジのマス(質量)とトーンアームの長さで低域共振周波数が決まります。 対して、CDは回転系があるも、PCMデジタルデータを拾い取るだけで、本質的に共振する機械要素が無いので低域共振は発生しません。
1)低域共振周波数を調べるには
テストレコード(AD-1)の「低域共振測定用低域周波数スイープ信号(4hz〜100hz)」を使って、クロストークが最も悪化する点(A部:11hz)の周波数を調べれば、その点が低域共振周波数になります。 B部は50hz付近に弱い共振が見られます。

スイープ信号のピーク部分が低域共振周波数です。
詳しくは、以下の記事をご覧ださい。
2)低域ノイズの抑制方法
低域共振で不要なノイズが増大してしまいます。 レコードをハイレゾ録音する時に、VinylStudioのランブルフィルターを使用すれば、このノイズを抑制することが可能です。

VinylStudioのランブルフィター特性
VinylStudioのランブルフィルターは、以下の記事をご覧ください。
3)低域共振でのクロストーク位相変化
低域共振部分で、左右チャンネルのクロストーク位相の変化をリサージュ波形で確認してみました。(下の動画は、Rchのスイープ信号とLchへの漏れ信号のリサージュ動画です)
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
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レコードは音溝の左右に記録されている凹凸に対して一本のスタイラス(針)で音をピックアップしているので、本質的に左右chの音を完全に分離できません。 対して、CDのデジタル録音の場合、クロストークを限りなくゼロにできます。[アナログマスターテープからCDを作成している(AAD、ADD)の場合も、クロストーク量が少ないテープレコーダーを使っているのでCDの方が有利の筈です。]
1)クロストークは何故発生?
45/45方式のステレオは、マトリクス原理で1本のスタイラスでステレオ再生(LR分離)しています。
一方クローストークは、マトリクス原理に絡んでカートリッジのアジマス(レコード面に対する方位角)によって変化します。 クロストーク発生要因については、詳しくは以下の記事をご覧ください。
2)クロストークの改善
DENON・DL103Rカートリッジについて、アジマス調整によってクローストーク改善を行いました。
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詳しくは、以下の記事をご覧ください。
上記のブログページによれば、DENON(DL-103R)カートリッジをテストレコード(AD-1)を用いてリサージュ波形を用いてクローストーク位相(L/R)を観測したところ逆相のエリア(90°〜180°)にある結果でした。 ウィキペディアの定位感によれば、「一般に逆相成分の多い音は遠くで広がるように聞こえる」との記述があり、カートリッジのクロストークに逆相成分が含まれていれば、音の広がりを感じる様になると考えられます。
ここで、参考までに「カートリッジのクロストーク位相を確認(Osciloppoiのリサージュ波形)」ページから、順相/逆相のサンプルビデオを視聴ください。
逆相の場合、音の広がりを感じると思います。(逆相時、モノラールで再生すると左右が打消されて音が再生されません)
サンプル音源は、テストレコード(AD-1)のバンド3:位相チェック信号の順相(同相)と逆相再生のデモです。(一部音声が途切れています。 信号は、500hz 1オクターブバンドノイズです)
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CDは表面にホコリや傷が付着しても誤り訂正で、レコード様なスクラッチノイズは発生しません。
バージンレコードであっても、中古レコードに対して圧倒的に軽微ながらレコードの離型剤等の残滓でプチノイズが発生します。
本質的に発生してしまうレコードのスクラッチ(プチ)ノイズですが、例えばVinylStudioで録音してノイズ抑制機能を利用すれば、プチノイズは軽減できます。
❏ プチノイズ抑制事例
Before:スクラッチノイズあり
After:チノイズの抑制後
VinylStudioを使った実例(自動抑制)と効果は、詳しくは以下の記事をご覧ください。
手動で大きなスクラッチノイズを抑制(修正)することもできます
プチノイズの抑制(自動)で取り切れない大きなクリックノイズは、手動で削減できます。 詳しくは以下の記事をご覧ください。
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プレーヤの回転数偏差は、1khzの標準音に対して、3hzの誤差が聴きわけのできる限界から、±0.3%以下に抑えることが一般的の様です。 ハイクラスのターンテーブルを用いれば、回転数偏差やワウ・フラッターを低減できるものの、一方、CD再生の速度偏差は、水晶精度のppmレベルを容易に達成可能になります。
また別の問題として、アナログ録音のレコードと同じアナログ録音からデジタル化された音源(AADとかADD)の演奏時間は、製作者によって相当に異なる様です(下記関連記事参照)ので、いくらハイクラスのターンテーブルを用いてもレコードとCDの演奏時間(=回転数偏差)に差が生じてしまいます。 事程左様に、デジタルと比較してアナログ録音の演奏時間(=回転数偏差)はアバウトというほかありませんね。
❏ ターンテーブルの回転数偏差の測定について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
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レコードは、サウンドの1/f特性から低域のカッティング振幅を抑制(低減)する必要があるために、1khzを中心にして低域振幅レベルを下げ、高域は振幅レベルを上げて音溝を彫り、再生時は、フォノアンプで逆特性のフィルター(RIAAカーブ)を用いて元のフラットレベルに戻しています。 参考として、RIAAカーブグラフを下に示します。
録音サイドと再生サイドで、このRIAAカーブを形作るフィルター定数のバラツキやカートリッジの周波数特性のバラツキなどからイコライザ特性を一致させることは不可能で、必要に応じてトーン・コントロールでアバウトに音質補正をする必要があります。 一方、CDでは、録再伝送系でS/N対策のために、イコライザーを使う必要が無く、録音サイドと再生サイドの音質はアナログと比較にならないほど一致する筈です。
❏ VinylStudioを使った音質補正について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
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レコードの内周に向かって、線速度が低下しますので徐々に高域再生のレベルが低下して行きますし、更に、レコードのカッティングマシンとスタイラス形状の違いでトレーシング歪が増大します。 一方CDにあっては、デジタル記録のために、この様な伝送上の問題は発生しません。
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テストレコード(AD-1)side2 の「バンド4:基準レベル、1kHz、3.54cm/sec(尖頭値)、左チャネル」を「MCカートリッジ:DENON DL103R」を使って再生し、Wavフォーマット(24bit 192khz)で録音したファイルをWindowsソフト・WaveSpectraでスペクトルと歪率を測定してみました。 歪率はスペクトル表示画面の左サイドのTHD,Nの枠内に表示されます。 (テストレコード(AD-1)の詳細はここをクリック)
ポイント
- 1khz正弦波の倍音(ハーモニックス)が5khzまで見られ、このハーモニックスはレコード製造過程上と再生上のアナログ歪で生じたものと思われます。 対して、CDの場合は、デジタル伝送ですので伝送上のアナログ歪は生じません。
- このハーモニックスに因って、アナログレコードの再生・歪率は、THD(ノイズを含めないハーモニックス)で0.5%前後になっています。 対して、CDの場合-20dbにおけるCD特有の量子化ノイズを含めた歪率(THD+N)であっても、後記で示す「CD歪率・1khz sin(fs=44.1khz)グラフ」から歪率が約0.01%でCDが圧勝しています。
- ノイズフロアは、約-90db程度で、対してCDの場合約-120dbでこれも、CDの方がS/N有利です。
(備考)
以上のように-20db程度のレベルであれば、CD歪率(THD+N)0.01%でCDの方が圧倒的に有利です。 しかし、録音レベルが低下して、アナログレコードでは発生し得ない有害な量子化ノイズの割合が増えることで、例えば-60dbレベルでのCD歪率(THD+N)は1.7%を超えてしまうことに注視すべき必要があります。
以上、アナログ・レコードのダメな点でした

CDがダメな点
一方、CD音質のダメなところは、レコードとは真反対の、高域部分に弱点があります。 周波数が高くなれば、1周期当たりのサンプリング数(測定ポイント)が少なくなり(20khzで2ポイント)更に、リアルサウンド(特にクラシックのストリングス)では、周波数が高くなるに従って、音のレベルが低下する特性(1/fスペクトル)なので、音のレベルが低くなればなる程測定できるビット数が少なくなり(-60dbFSで6bit -90dbFSで2bit)、量子化ノイズ(歪)が本質的に増大します。 アナログでは当然「量子化ノイズ」は皆無です。 歪に着目したのが以下になります。
CDフォーマット(16bit)での音のレベルの低下と歪率(THD+N)の関係を測定してみたのが下のグラフになります。(上のオレンジラインがCD・16bitを示し、下のブルーラインがハイレゾ・24bitを示します) グラフからCD・16bitでは、-60db以下になると歪率が1%以上になってしまいます。(一方ハイレゾ・24bitでは、0.01%)
つまり、弱音になればなるほど量子化ノイズが増えて歪率が悪化することを示しています。 このため、CDでは量子化ノイズ をボヤかすため故意にノイズを重畳させるディザリング手法で聴感対策していますが、オーディオ的には、ちょっと戴けません。 (ディザリングについては、ここをクリック)
CD音質について、以下の記事をご覧ください。

それでもアナログレコードの音質が好ましいのは何故?
最近、アナログレコードが見直され、何故(最近)評判が良いのでしょうか?
アナログ・レコードのダメな点を大きく俯瞰すると、低域部分(低域共振)に不利な点を抱えていることが判ります。 一方、CDのダメなところは、前述の様にレコードとは真反対の、高域部分に弱点があります。 人間の聴感は、中高域(1khz~10khz)部分で感度が高くなりますので、高域部分でCDの量子化ノイズが悪化することで違和感を感じるのかも知れません。
ただ、この違和感ですが、例えばレコードをハイレゾ録音した後、CD化して聴くと違和感は殆ど感じませんし、レコード音質とほぼ同等の違和感の無いCDも存在しているのも事実です。 CDの弱点を踏まえたマスタリングに因るものかもしれません。 CDの持つ高域の弱点を回避するのは、簡単で、CDフォーマットより上のハイレゾ化(24bit96khz以上)にすればOKですね。
ここからは、根拠がない推論ですが、アナログレコードがCDより好ましく聴こえるのは、レコードのダメな点によって再生音が歪んだとしても、倍音成分の連続性を持ち、好ましい音質に変質するのかも知れません。(全く根拠はありません。m(__)m)
以上の推論について、音展2022で「Lacquer Master Sound」を試聴する機会を得てもう一歩踏み込んだ考察を行うことが出来ました。(2022/6/21 追記)
「Lacquer Master Sound」について32bit 96khzのハイレゾマスターから、生のラッカー盤にダイレクトカッティングを行い Ortofon SPUカートリッジを用いたハイエンドプレーヤでラッカー盤をアナログ再生した後デジタイズ(24bit 96khz)配信を行うというシステムです。(OTOTEN(音展)2022のブログ記事はここをクリック)
Lacquer Master Soundを試聴して
音展2022・試聴会は、「①32bit 96khzのハイレゾマスター音源」と「②ラッカー盤のアナログ再生をデジタイズした音源」を聴き比べるので、理想的な条件下でデジタルとアナログレコードの音質の違いが判る筈です。
聴き比べた結果、「②ラッカー盤のアナログ再生をデジタイズした音源」の高域が好ましく、更にカートリッジのクロストークがあるにも関わらず音の広がりも感じられるものでした。
つまり、ラッカー盤(アナログレコード)を再生することで、音質が(好ましい方向に)変質すると言うことに他ならないと思われます。
何故、アナログ(デジタイズ)音源の高域が聴きやすく音の広がりを感じるかについて、「アナログレコードのここがダメ」のデータから見た以下考察(推論)です。
- 高域の聴きやすさ:前述の「アナログレコードの歪率」で述べた様に、1khz正弦波を再生すると、6khzまで整数倍のハーモニクスが観測されます。 このハーモニクスは、カートリッジ(DL103)特有の歪でカートリッジの音色を与えるものと考えられ、これが高域が聴きやすくなる要因ではないかと推察します。
- 音の広がり:前述の「3)クロストークの位相について」で述べた様に、カートリッジのクロストークに逆相成分が含まれているために「音の広がりが感じられる」のではないかと推察します。
最後に「レコードのここがダメ」の総論として、『レコードの多くのダメな点を完全に解消することはできないので、アナログレコードの再生装置毎に特有の個性を持つ音質(楽器の様な)になり、CD(デジタル)音質とは一線を画すものになる』と言えます。
ただし、元々ダメな録音は、レコードを通しても良くならないことは言うまでもありません。
以上から、最近の人工的にレコードナイズフィルターを作るのでなく、アナログ名盤を最高級のターンテーブルで、ビンテージのカートリッジを用いて録音したハイレゾ音源が将来的に、ビジネスモデルになるかもしれませんね。
LPレコードのサンプル音源を聴いてみる
ポイント
このサンプル音源は、録音年と共に経過年を併記している通り、半世紀以上前に録音されたものです。 多少の劣化はありますが半世紀以上経ても、その音色は今に蘇りこれはデジタル記録には無い『冗長であるが故のアナログ記録(LPレコード=物理記録)の優位性を証明しているのではないか?』と思いますので是非お聴きください。
サンプル音源・DLコーナ
ここをクリックしてサンプル音源を聴いてみてください