「VinylStudio」でLPレコードをハイレゾ録音した後、音質補正してファイルを出力したい場合があります。(注記1参照) 音質補正する場合、VinylStudioでは、二つの補正方法があります。
グラフィック・イコライザー(グライコGraphic Equaliser:10バンドグラフィックイコライザー)を使う方法とEqualisation Curves (FFT Filters) (FFTフィルター)を使う方法です。 どちらも再生しながらリアルタイムで音質補正の確認ができ、この補正結果に基づいた録音ファイルを出力することができます。
実際のリアル音源のスペクトル(1/f)に近い、ピンクノイズを用いて音質補正の評価を行ったところ、グライコを選択した方が良さそうとの結果になりました。 この評価の過程をブログし、次回記事でリアル(クラシック)音源での評価を行いたいと思います。
(注記1)音質補正の必要性
LPレコードは、物理記録のために、サウンドの音響エネルギー(低域は振幅大)を考慮して、レコードをカッティングする時に1khzを中心に低音は下げて、高音は上げる様に補正カッティングし、再生する時は、その逆特性を持つフォノ・イコライザーアンプを通して元の音質を復元するシステムになっています。 LPレコードの初期においては、各社レーベルともバラバラのイコライザ(EQ)特性でしたが、RIAA(アメリカレコード協会 : Recording Industry Association of America,)規格に統一されました。 しかし、RIAAに統一されたからと言っても、カッティングのEQ特性と再生側のEQ特性をマッチングさせることは、至難の技であることは容易に想像できますね。 その点デジタルは、伝送系のノイズをキャンセルできるので、圧倒的に有利です。 でも、CDの不利な点は、ビット深度が16bitしかなくリアルな音源スペクトルでは高域になるとともにレベル低下(1/f特性)しますので、ビット深度が下がる弱点(『CDで再生されるストリングスの音は何故、違和感を覚えるか? (推定編)』記事参照)を持っていることです。
イコライザー特性に関連して、以下のサイト記事もご参照ください。
『「1954年以降はRIAAカーブ」は本当か? ― 「記録」と「聴感」から探るEQカーブの真意』を参照してください。
注意ポイント
以上の様に、イコライザーカーブがRIAAカーブに統一されたからと言っても、レコード会社のレーベルでEQカーブに違いがあるようですし、レコーディング側と再生側のEQ特性を一致させることは、物理的に困難と思われます。 LPレコードをハイレゾ録音した後で、もしサウンドに違和感があると思えば、ためらわずに音質を補正してファイルを出力すべきだと思います。(VinylStudioでは録音したオリジナル音源はそのまま残して補正したファイルを出力しますので、容易に元のサウンドに戻せます)
ピンクノイズの音源生成
何時もの様に、WindowsソフトのWaveGeneを使用させて頂きました。
Wave1:ピンクノイズ、帯域制限:加算(エイリアシング発生無し)、-3db出力で5秒間のwaveフォーマット(192khz 24bit)でファイル出力しました。
このwaveファイルを、VinylStudioにインポートした時のピンクノイズ・スペクトル
実際に即して、RumbleフィルターをONにした時のスペクトル
上のピンクノイズをMP3(48khz CBR320kbps)へエンコードした音を聴いてみてください。(参考) 音量が高いので注意!!
VinylStudioによる音質補正
❏ グラフィック・イコライザー(グライコ)での音質補正
フィルターポジションは以下でセティングしてみました。(RumbleはONにしています)
(2khz -1db,4khz -2db.8khz -3db,16khz -3db)
このフィルターでのピンクノイズをMP3(48khz CBR320kbps)へエンコードした音を聴いてみてください。(参考) 音量が高いので注意!!
❏ FFTフィルターでの音質補正
フィルターカーブは以下でセティングしてみました。(RumbleはONにしています)
このフィルターでのピンクノイズをMP3(48khz CBR320kbps)へエンコードした音を聴いてみてください。(参考) 音量が高いので注意!!
注意ポイント
夫々のフィルター設定は、実際に即してレベルが最大でも-3dbと小さくしていますので、MP3のサウンド音質差は分かり難いと思います。 以下の周波数分析で、夫々のフィルター設定がどの様に反映されるかを調べて行きます。
フィルター設定での周波数分析 比較
周波数分析に当たり、VinylStudioから192khz 24bitのFLACフォーマットでファイル出力し、Audacityに取込み周波数分析(hanning サイズ16384)を行いテキストファイル書出しデータをExcelでグラフ化しオリジナルのピンクノイズスペクトルを基準にして夫々のフィルターのスペクトルと比較します。
❏ グラフィック・イコライザー(グライコ)での音質補正の場合
- 設定ポジション付近でわずかにディップ(変位)が見られ、8khz付近で、設定が-3dbに対して-4dbになっている。(評価△)
- オリジナルとの差は、綺麗な直線になっている。(評価◯)
❏ FFTフィルターでの音質補正の場合
- 低域部分にオリジナル比べ減衰(-2db)がある。(評価☓)
- フィルターカーブと同じ様な特性になっている。(評価◯)
- オリジナルとの差で、ジッターの様な細かい変位が見られる。(評価☓)
マトメ
VinylStudioで2種類の音質補正の特性を見てきましたが、夫々一長一短があることがわかりました。 この中で、FFTフィルター方式で音質補正すると、オリジナルとのスペクトル差成分がジッターの様な細かい変位が見られることが気になる点です。
更に、原因不明ですが、FFTフィルターでファイルを出力すると、以下のように音源の長さ(エンベロープ)が、オリジナルに比べ短く(-136ms)なることを発見しました。
FFTフィルタの終端部拡大の波形をみますと、4.840秒以降が切られる前の波形は、目視上ですが、オリジナル波形(上の波形)と一致しています。 この事象は、FFTフィルターの仕様上の問題なのか不明です。
何れにしても、音質補正する場合、ピンクノイズによる評価結果から、グライコのフィルタの方を選択した方が良さそうです。
次回ブログにおいて、実際のリアルサウンドを音質補正した時にどの様な結果になるののか、試聴含め再確認してみたいと思っています。
リアルサウンドでの音質補正の投稿記事