「Apple Digital MastersのAAC音質(その1)」に引き続いて、評価用ピュアー音源として①レベルを変えた1khz正弦波Wav Fileと②2.5khzノコギリ波Web Fileを使ってApple Digital Masters(以下ADMに略します)ドロップレットツールでAACに変換したFileと比較のためXLDでAACに変換したFileを定性的な音質評価と比較を行ってみました。 なお、XLDはMAC OSX用のフォーマット変換ソフトでフリー(ドネーション)ウェアです。
(2020/7/15:一部改訂)
評価用ノコギリ波のフォーマットを24bit 192khzからADMの要求に合わせて24bit 96khzに変更して再評価しましたので当ページの一部を改訂しました。 (ADMの要求に合わせて24bit 96khzに変更したことで、高域の減衰が解消されました。 サンプリング周波数の違いによるAACエンコーダの高域減衰については、以下ブログ記事に掲載しました。)
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ハイレゾ音源からAAC変換:
サンプルレートが高いハイレゾ音源ほどAAC音源の高域が減衰する?(XLDアプリの場合)サウンドアプリに搭載されているAACエンコーダは通常サンプルレート(fs:サンプリング周波数)が48khz(又は44.1khz)で出力されますので、ハイレゾ音源(ex.fs=192khz)の場合は1/ ...
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目 次
先ずは、評価結果を知りたい方は、
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評価用ピュアー音源の作成
1)レベルを変えた1khz正弦波
レベルを変えた1khz正弦波(下表の4種類)をWindowsソフトのWaveGeneでWavファイル(24bit 44.1khz)を生成します。 この4種類の評価用音源をWaveSpectraで測定した歪率も以下に併記しておきます。
1khz sin 記録レベル | 生成フォーマット | 歪率(THD+N) |
0dbFS | 24bit 44.1khz Wav | 0.00001% |
-48dbFS | 0.00151% | |
-60dbFS | 0.00573% | |
-90dbFS | 0.18372% |
2)評価用ノコギリ波
評価用ノコギリ波は、8つの正弦波(2.5khzを基本波として最大:2.5khz✕8=20khzまでの整数倍周波数)をWaveGeneで加算して5秒間の2.5khzのノコギリ波をWavファイル(24bit 96khz)で生成します。 評価用ノコギリ波は、『ピュアー音源から見た「MP3、AAC」の音質比較』でご参照ください。
WaveGeneのパラメータは以下の通りです。
Wave1 | Wave2 | Wave3 | Wave4 | Wave5 | Wave6 | Wave7 | Wave8 | |
sin hz | 2.5k | 5.0k | 7.5k | 10.0k | 12.5k | 15.0k | 17.5k | 20.0k |
db | -20.0 | -26.02 | -29.54 | -32.04 | -33.98 | -35.56 | -36.9 | -38.06 |
このファイルをAACにエンコードしてWaveSpectraでスペクトルを観測しスプリアスや8つの正弦波のピークレベルを測定します。
作成したピュアー音源をAACにエンコードします。
ピュアー音源をADM用のAACにエンコードするにはADMドロップレットツールを使います。 このADMドロップレットツールでエンコードされたAACファイルと比較するため、XLDソフトを使って同じくピュアー音源をAACにエンコードします。 以下は、夫々のエンコーダでAACファイルを作成する手順と生成されたAACファイル情報(MediaInfo)を示します。
1)ADMドロップレットでエンコード
Apple Digital Mastersの紹介記事から「Apple Digital Mastersドロップレット」ツールをダウンロードして、OSXにインストールします。
このツール中のApple DIgital Masters Droplet.appへAACに変換したいピュアー音源(Wavファイル)をドロップすると、同じフォルダー内にApple Digital Mastersのテクノロジー(ビット深度24bit)でエンコードされた256kbpsのAACファイルが生成できます。(チュートリアル動画 参照)
ADMの要求仕様が96khzのためピュアー音源のサンプリング周波数も96khzに合わせる必要があります。
尚、ドロップレットを使わなくても、Mac OS X のターミナルからコマンドライ ンで操作できます。 詳しくは、「Apple Digital Masters テクノロジー概要」をご覧ください。
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ADMでエンコードされたAACファイルのMediaInfo情報
2)比較のためにXLDでエンコード
ADMエンコードと比較するために、過去記事「AACエンコーダを評価する」でBEST評価であった、Mac OS X用のCDリッピング定番ソフトのXLDでピュアー音源を256kbpsでエンコードしました。 バージョンは20161007 (149.3)です。
なお、XLDは国産ドネーションウェア(寄付あり)でフリーで全ての機能が使えます。
XLDでエンコードされたAACファイルのMediaInfo情報
ポイント
MediaInfo情報の中で、双方ともVBR モードですが、特徴的な点を以下に示します。 この点から、ADMはビットレートモードがVBRと表記されているものの、VBRの一種であるAVRモード(平均ビットレート)に近く、スムーズなApple Musicストリーミング再生に配慮していることが伺われます。
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ADMではABRモードの特徴であるビットレートのノミナル値(目標値)が表示されていること。(XLDはノミナル値の表示が無い)
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ADMのストリームサイズが小さく(圧縮率が高く)なっていること。
WaveSpectraで評価するために、AACファイルをWavファイルに変換します。
評価用のツールとして、歪率の測定やスペクトルを表示できるWaveGeneの姉妹ソフトであるWaveSpectra(以降、WSに略します)を使用します。 WSの対応フォーマットはWavファイルのみですので、WavファイルにデコードするAppleから提供されているApple Digital Mastersの「Audio to WAVE 44.1k,48k,96K Dropletツール」を使ってADM及びXLDで作成されたAACファイルをWavファイルに変換します。
Wavファイルに変換する方法
先程、インストールした「Apple Digital Mastersドロップレット」ツールの「Audio to WAVE で示されているドロップレットapp」へ以下の様に夫々のAACファイルをドラッグ・アンド・ドロップしてWavファイルに変換します。
- 1khz 正弦波・AACファイルに対しては、Audio to WAVE 44.1K Droplet.appにドラッグ・アンド・ドロップします。(MediaInfoで確かめたサンプルレートが44.1khzのため)
- 2.5khz ノコギリ波・AACファイルに対しては、XLDはAudio to WAVE 48K Droplet.appに、ADMはAudio to WAVE 44.1K Droplet.appにドラッグ・アンド・ドロップします。(MediaInfoで確かめたサンプルレートに合わせました。)
1khz 正弦波 AACファイル評価結果
1)WSで歪率(TD+N)% 測定結果
ポイント
歪率(TD+N)%について
レコードの様なアナログ記録と違ってPCMは本質的に量子化ノイズが生じます。 例えばCDフォーマットのビット深度は、16bitですので、測定できるポイントは、2の16乗ですので、フルスケールで65536の測定点が取り得ます。 (Dレンジで言うと96dbになります) 入力信号が1khzの正弦波で10vp-pの信号を記録すると、65536の測定点があり1ポイント当たりの最小測定電圧は、153μvということになります。 ところが、1khzの正弦波で入力電圧が微小の306μvp-p(-90dbFS)を記録しますと1bit分(2値)の分解能しかとれず、その時の波形は正弦波と異なる劣化した階段状の波形になります。
波形が階段状ですと、1khz以外の高調波成分が生じますので、この高調波成分を量子化ノイズということになります。 基本波の1khz成分以外の全ての(量子化ノイズを含んだ)ノイズ量と1khzの基本波・量との割合を測定したものが歪率(TD+N)%になります。 つまり、CDフォーマット(16bit)では入力信号がフルスケール(0dbFS)では量子化ノイズ成分の割合が最も少ないので歪率が最も小さくなり、最小スケール(-96dbFS)に向かって量子化ノイズの割合が多くなるので歪率が大きくなる(悪化する)ことになります。
一方、ビット深度24bitのハイレゾの場合、前記306uvp-p(-90dbFS)を記録すると9bit分(512値)の分解能がありますので、その時の波形は、CD(16bit)と比較すると量子化誤差の相対割合が小さくなり綺麗な正弦波になり高調波成分が少なく(歪率が小さく)なります。
では、ADMのAACファイル(非可逆圧縮フォーマット)の歪率はどうなるか?WSを使って調べてみたのが以下になります。
下記グラフは、「CDフォーマットのここがだめ」で測定したCDフォーマットの歪率とハイレゾの歪率グラフに、ADM、XLDエンコーダのWSで測定した歪率データをプロットしています。
ポイント
このグラフから、フルスケール(0dbFS)でADMの歪率がCDフォーマット(16bit)の歪率より若干悪化していますが、ADMエンコーダでは-10dbFS以下で歪率がCDより優位になり、一方XLDエンコーダでは、歪率がCDより優位になるという結果でした。 この原因は、1khz正弦波 -48db スペクトルにおいて、ノイズフロアーのレベルがXLDより優っている為で、この点で見ればADMエンコーダよりもXLDエンコーダの方が歪率が小さく優位と言えます。
ただし、ADMは-60dbFS以上で歪率が0.01%以下に収まっており大きく見ればCD(16bit)歪率より優り、ハイレゾ(24bit)歪率との中間に位置していると言えるのでは無いかと思われます。 これは、ADMやXLDがビット深度を24bitに対応してAACにエンコードしていることの優位性を示していると思われます。
2)1khz正弦波 -48db スペクトル
(FFT条件)サイズは32768でHanning窓ポイント
XLDエンコーダの方がスペクトルのサイドロープ幅が小さく、ADMエンコーダは微小レベルながらスプリアス状のノイズが見られます。
2.5khz ノコギリ波 AACファイル評価結果
1)2.5khz ノコギリ波 スペクトル
(FFT条件)サイズは32768でHanning窓ポイント
ADMエンコーダは微小レベルながら、2.5khzを基本波とした整数倍の周波数毎のサイドロープにXLDより多くのスプリアス状のノイズが見られました。
2)2.5khz ノコギリ波 ピークレベル
ポイント
ADMエンコーダは、2.5khz ノコギリ波のパラメータで設定した値と略一致していますのでハイレゾ 24bit 96khz wavファイルをADMでエンコードした場合、高域周波数の減衰は生じないことを示しています。
一方、XLDエンコーダは、20khzで-1.45dbで減衰が見られました。
考察・マトメ
以下に評価結果を箇条書きしますと、
- 今回のピュアー音源による定性的評価では、総合すると歪率の点やスプリアス状のノイズの点からADMエンコーダよりXLDの方が優位でした。 ただし、この程度の差では聴感上で認識できるレベルではないと思います。
- ノコギリ波のスペクトルで、8波のピークレベルで比較しますと、ADMの方がXLDよりも高域減衰には優れていると思います。
- ADMエンコーダは、VBRの一種であるAVRモードに近く、ファイルサイズの圧縮率からパフォーマンスに優れており、スムーズなストリーミング再生と音質のバランスを勘案したエンコーダーではないかと思われます。
- ハイレゾ録音(24bit 96khz)から音質重視でAACにエンコードするなら、ADMも有力な選択肢になると思われます。
以上、ピュアー音源で定性的にApple Digital MastersのAAC音質を評価しました。
ADMテクノロジーについては「Apple Digital Mastersの音質評価(その1)」を参照ください
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