今迄、レコードからハイレゾ録音した音源をAACに変換する時に極力音質を劣化させず、CD音質を凌ぐにはどうしたら良いか?自分流で試してきた結果を投稿しました。 ただ、評価に統一性がないところもあり、ここで整理する意味から、今まで試してきたAACエンコーダ(アプリ)の6種類に絞って「4つの視点」で再評価しランキング を付けてみました。 (何しろ無手勝流ですので誤りがあればご指摘を (-_-;) )
予めお断り
「 4 つの視点」の音質評価 は、プラシーボ効果( 思い込み)を避けるため、試聴による音質評価は行わずスタティックな音源をベースにCD音質を凌ぐか否かにフォーカスしてデータで評価 しています。 あくまで、音質評価の一つの側面を現している参考データとしてご覧頂ければと思います。
評価する4つの視点
評価する各項目に重み付けを加味した評価点を付けて総合得点で、AACエンコーダ(アプリ)の優位性(順位)を見ることにしました。
AAC変換時のパラメータ
サンプルレート:48khz ビットレート:320kbps CBR 「Apple DIgital Masters Dropletアプリ」の場合は、仕様上から サンプルレート:44.1khz ビットレート:256kbpsです。 このため、他のアプリに比較して上限周波数特性(F特)が不利になりますのでランク付け時点で考慮することとします。
AAC変換した時の歪率特性 レベルを変えた1khz sin波 ハイレゾファイルをAAC変換して歪率特性を見る。
評価点: 夫々のレベル(0db,-3db,-20db,-48db,-60db)に対してCD歪率(THD+N)より優っている場合は 1点 劣っている場合は 0点
+ 歪率(THD+N)測定手順を見る
① 1khz 正弦波ハイレゾ音源の作成: レベルを変えた1khz正弦波(24bit 192khz wav)5秒をWaveGene で作成します。 今回は歪率特性グラフを見るために、0db,-3db,-20db,-48db,-60db,-90db の6つの評価ファイル を作成しました。 (注記:Apple Digital Mastersの評価用は、192khz→96khz にします)
② 夫々の1khz正弦波を評価対象のアプリでAAC変換します。
③ 歪率を測定するために、WindowsソフトのWaveGeneの姉妹ソフトであるWaveSpectra を使用させて頂きますので、AAC変換されたファイルをwavに変換する必要あります。 AACファイルが48khzの場合は、Apple Digital Mastersに付属する「Audio to WAVE 48K Droplet.app 」を使って24bit 48khz wavフォーマットに変換します。Apple Digital Mastersで変換したAACファイルの場合は、「Audio to WAVE 44.1K Droplet.app 」で44.1khz にします。
④ 歪率測定手順は非常に簡単で、各々wav化されたAACファイルをWaveSpectraにドラッグ&ドロップします。 再生ボタンを押して約2秒程(音源の長さは5秒なので半分位経過して安定する点)のところで、pauseボタンを押して歪率(THD+N) を測定します。
歪率測定窓にTHD(上段)とTHD+N(下段)が表示されます。 THD+Nとは、total harmonic distortion + Noiseの略で、全高調波歪にノイズを加えた基本波成分の比(%)です。
(FFT条件)サイズは131072でHanning窓です。
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再生できる上限周波数特性(F特) -20db pink-noise ハイレゾファイルをAAC変換して絶対誤差からF特グラフを作成し再生できる上限周波数(-3dbのCut-Off周波数)を見る。
評価点: CDの上限再生周波数(22.05khz)より優っている場合は 2点 、劣っている場合は 0点
+ F特グラフ化手順を見る
① Pink-noise音源の作成 -20db Pink-noise(24bit 192khz wav)5秒をWaveGene で作成します。 Apple Digital Mastersの評価用は、96khzで作成します。
② -20db Pink-noise音源(192khz用、96khz用)をAudacityにドロップして、解析 > スペクトル表示 > 書出しボタン を押すと周波数とレベル(db) データがテキストファイルとして書き出されます。 名前を仮に「Pink-noiseテキストファイル」とします。
③ Pink-noise音源を評価対象のアプリでAAC変換します。(Apple DIgital MastersのAAC変換の場合は、Pink-noise音源(96khz用)をApple DIgital Masters Droplet.app にドロップしてAAC変換します。)
④ AACに変換されたファイルは元のハイレゾwavフォーマットに合わせるために、「Audio to 192khz WAVE Droplets.app」 にドロップして192khzのwavファイルに変換します。 (注記:Apple Digital Mastersで変換したAACファイルをwavに変換する時は、ドロップレットツール「Audio to WAVE 96K Droplet.app 」で96khz wav にします)
⑤ AAC変換wavファイルを、Audacityにドロップして、解析 > スペクトル表示 > 書出しボタン を押すと周波数とレベル(db) データがテキストファイルとして書き出されます。 名前を仮に「AACテキストファイル」とします。(関数窓:Hann Window でサイズ:16384)
⑥「Pink-noiseテキストファイル」を開き[周波数とレベル(db)]データ全てをコピーして、MacのNumbers(又はEXCEL)に貼り付けます。 同じ様に「AACテキストファイル」を開き[周波数とレベル(db)]データ全てをコピーして、MacのNumbers(又はEXCEL)に貼り付けます。
⑦ AACテキストファイルデータのレベル(db)からPink-noiseテキストファイルデータのレベル(db)を引き算して絶対誤差を求めます。
⑧ 絶対誤差が-3dbになる周波数がCut Off周波数(=上限周波数)になるので、 -3db を検索するために、Numbersの整理タブ をクリックして、 フィルター > フィルターの追加 から 検索したい列 を選び、ルールで 「数字」> 「数値以下」 で -2 と入力すると 列に -2 以下の数値のみ現れますので、-3 の値に対応する最も近い値を探し、対応する周波数がCut Off周波数(=上限周波数)です。
⑨ 周波数と絶対誤差(周波数特性:F特)を選択してグラフ化(散布図)します。
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リアル音源で高域暴れの有無 原因は定かではありませんが、レコードからハイレゾ化したレベルの低い音源をAAC変換するとスペクトル上で高域部分に暴れが生じる ことを経験しています。 聴感上問題になるか?は別にしてスペクトル上の上限周波数がCDより劣化することになり、評価項目に加えました。 評価方法は、高域暴れ評価用音源として、レコードをハイレゾ録音した「 ベートーベン 交響曲第8番 2楽章(カラヤン ベルリン・フィル ) 1962年録音盤」ファイルを AAC変換した時に18khz以上でスペクトルに暴れが生じるか否かで判定します。
評価点: 暴れが見られない場合は 2点 、暴れが見られる場合は 0点
以下のボタンを押すと「高域暴れ評価用」音源 がDLできます。 AAC変換後、AACのサンプルレート(fs)に従ったサンプルレート(fs)のwavファイルに変換 して、Windowsアプリ WaveSpectra にドロップすればリアルタイムでスペクトルを見ることができます。
Apple Digital Masters用 (96khz 24bit wav)
Down Load
+ 高域暴れの実例を見る
foober2000の場合です。 映像をご覧ください。
ポイント
pink-noiseで確認したF特から、上限周波数は、23.7khz でしたが、動画で見られるように上限周波数が最低で18khz付近から23khz付近までの変動(高域の暴れ) が見られます。
なお、foober2000のエンコーダはAppleAACでAAC設定は、CBR 320kbps にしています。
foober2000でpink-noiseをAAC変換した 上限周波数は23.7khzでしたが、リアル音源をAAC変換すると、18khzから減衰しています。
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評価した AACエンコーダ(アプリ)と「4つの視点」個別データ
「4つの視点」で評価する対象アプリは 6種類 で 後述したランク順位を【】内に付記しています。
下の「対象アプリ」ボタンを押すと、「4つの視点」で評価したデータが展開します。
1. Apple Musicアプリ(iTunes)【3位】
2. FFmpeg CLI コマンドライン【1位】
3. Afconvert CLI コマンドライン【3位】
5. Windows版foober2000【2位】
6. Apple DIgital Masters【4位】
「4つの視点」評価結果(マトメ)
この表は、前章の「アプリ毎の個別データ」 から表にマトメました。 この表には、評価点を付記しています。(評価点の得点が満点で10点になります。 残念ながら、10点満点を付けたアプリはありませんでした。)
「4つの視点」評価ランキング
[1位] 「FFmpeg CLI」と「XLD CLI 」最高ランクは、9点の、「FFmpeg CLIアプリ」と「XLD CLI アプリ」でした。
CD音質との比較では、歪率面で両者とも、0dbでの歪率がCDより劣っていました。 実際の所、ハイレゾ録音は通常ノーマライズを-3dbで実施するのが普通です。 よって、実際上-3dbを超えた音源をAAC変換することは無いので「XLD CLI アプリ」に於いては悪くてもCD歪率と同等と思われます。 更に、-20db以下であれば圧倒的にCDの歪率より優れた結果になります。
一方、両者とも48khz 320kbpsに於いて、再生できる上限周波数がCDのナイキスト周波数(22.05khz)より優っています。
更に、「高域暴れ評価用」音源で高域暴れ無くAAC変換されていました。
「FFmpeg CLIアプリ」は、「タグ情報の引き継ぎ」でアートワーク画像が引き継がれませんでしたが、後からアートワーク画像を付加するのは難しい作業では無いと思います。
[1位]アプリ個別データを見る
FFmpeg CLI コマンドライン
XLD CLI アプリ
FFmpeg CLI コマンドライン
ポイント
AAC変換は下のコマンドラインを組込んだAutomatorで実行します。 詳しくは参照記事をご覧ください。
/Applications/ffmpeg -i "変換元ファイル.wav" -aac_coder twoloop -vn -ar 48000 -ab 320k "変換後のファイル名.m4a"
参照記事:FFmpegCLIを組込 Automatorアプリ
ポイント
F特で確認した通りのスペクトル帯域幅で再生されており、高域の暴れが無い ことが確認できました。
AAC変換後のTag情報: アートワークのみ引き継ぎNG (引き継ぎ▲)
Artwork画像が引き継がれない欠点を改善した、FFmpegコマンドライン組込み・ショートカットApp!!(2022/9/9追記)
XLD CLI アプリ
ポイント
AAC変換は下のコマンドラインを組込んだAutomatorで実行します。
高域減衰を対策するため、ダウンサンプリング用のコマンドラインとAAC変換用のコマンドラインの2つを実行します。 また、XLD CLI では、直接オプション指定できない仕様になっており、サンプルレートやビットレート等のでオプション指定は、XLDの環境設定で予め、設定しておく必要があります。
詳しくは参照記事をご覧ください。
ダウンサンプリング用(AIFF変換) [CLI用XLDの実行ファイルをフルパスで指定] -o "[出力先フォルダー]" "[変換元ファイル名]" -f aif
AAC変換用 [CLI用XLDの実行ファイルをフルパスで指定] -o "[出力先フォルダー]" "[変換元aifファイル名]" -f aac
参照記事:XLD CLIを組込 Automatorアプリ
ポイント
F特で確認した通りのスペクトル帯域幅で再生されており、高域の暴れが無い ことが確認できました。
AAC変換後のTag情報: 全ての情報が引き継がれました(引き継ぎ◎ )
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[2位] 「Windows版foober2000」第2位は、8点の「Windows版foober2000」でした。
foober2000は、CD音質との比較で最高得点でした。 0dbの歪率でもCD歪率より優り、歪率特性的にも上限周波数的にも非常に優秀でした。
タグ情報も、アートワーク画像も含めて、完全にハイレゾ音源ファイルから引き継がれました。
惜しくもリアル音源のAAC変換で、高域暴れが生じてしまいました。 高域暴れが何故生じるか?良く分からないのですが、レコードから録音した「高域暴れ評価用」音源と同じ楽曲をe-onkyoから購入したハイレゾ音源でAAC変換した場合は高域暴れが生じませんでした。 これから、現象面で捉えるとマスタリングの違いでこの差が生じているのでは無いか? 試しに、「高域暴れ評価用」音源を-3dbで再ノーマライズ(増幅)してAAC変換したところ、今度は高域暴れが生じませんでした。
このアプリを使いこなすには、ハイレゾ音源のレベル等の扱いに注意してAAC変換すれば優位性あるアプリの一つと思います。
[2位]アプリ個別データを見る
Windows版foober2000アプリ
ポイント
評価用音源で、高域の暴れが発生 していることが確認されました。
Windows版foober2000アプリによるAAC変換は、レベルの低い録音からのAAC変換には適していません。 対策としては、ハイレゾ音源のレベルを上げるため、再ノーマライズを行う必要があるかもしれません。
AAC変換後のTag情報: 全ての情報が引き継がれました(引き継ぎ◎ )
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[3位] 「Apple Musicアプリ」と「Afconvert CLI」第3位は、7点の「Apple Musicアプリ(iTunes)」と「Afconvert CLIアプリ」でした。
両者とも歪率の点では、ハイレゾ録音を-3dbノーマライズで実施すればCDより同等以上で優位と思われます。 歪率特性は「Afconvert CLIアプリ」の方が優位でした。
上限周波数は両者共、評価対象アプリの中で最も高い値を示しました。
両者とも、タグ情報の引き継ぎに問題があり、この得点になりました。
[3位]アプリ個別データを見る
Apple Musicアプリ(iTunes)
Afconvert CLI
Apple Musicアプリ(iTunes)
ポイント
F特で確認した通りのスペクトル帯域幅で再生されており、高域の暴れが無い ことが確認できました。
AAC変換後のTag情報: 情報は引き継がれませんでした(引き継ぎ✕)
Afconvert CLI コマンドライン
ポイント
AAC変換は下のコマンドラインを組込んだAutomatorで実行します。
高域減衰を対策するため、ダウンサンプリング用のコマンドラインとAAC変換用のコマンドラインの2つを実行します。 詳しくは参照記事をご覧ください。
ダウンサンプリング用(AIFF変換) afconvert -d BEI24@48000 --quality 127 -r 127 --src-complexity bats -f AIFF [変換元ファイル名(フルパス)]
AAC変換用 afconvert -d aac -f m4af -q 127 -s 0 -u pgcm 2 -b 320000 [ダウンサンプリンされたグファイル名(フルパス)]
参照記事:afconvert CLIを組込 Automatorアプリ
ポイント
F特で確認した通りのスペクトル帯域幅で再生されており、高域の暴れが無い ことが確認できました。
AAC変換後のTag情報: 情報は引き継がれませんでした(引き継ぎ✕)
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[4位] 「Apple DIgital Masters Droplet」最下位は、3点の「Apple DIgital Masters Dropletアプリ」でした。(サンプルレートが44.1khzで上限周波数が不利になるので、配点を2点に加味しても5点で順位的に変わりませんでした。) 歪率面では、「Apple Musicアプリ(iTunes)」と同等の特性でしたが、最下位になった原因は、
Apple DIgital Mastersの仕様上の点から、サンプルレートが44.1khzにあることです。 このため、96khzからダウンサンプリングによるディメンションフィルターが介在するため、44.1khzのナイキスト周波数より低下するので、CDの上限周波数を超えられません。
foober2000と同じ様にリアル音源で高域暴れが生じていました。 foober2000と同じ様に、「高域暴れ評価用」音源を-3dbで再ノーマライズしてAAC変換したところ、今度は高域暴れが生じませんでした。 念の為、Apple Storeから購入した同一音源のApple DIgital Masters(AAC)ファイルでスペクトルを確認したところ、高域暴れが生じていませんでした。
タグ情報の引き継ぎにも問題がありました。
以上Ⅰ〜Ⅲ の結果から、レコードから録音したハイレゾ音源を「Apple DIgital Masters Dropletアプリ」でAAC変換することはあまりオススメ出来ない結果となりました。
[4位]アプリ個別データを見る
Apple DIgital Masters Droplet
ポイント
Apple DIgital Masters Droplet.app にハイレゾ音源(24bit 96khz wav)をドロップして、AAC変換を実行します。 AAC変換は、44.1khz 256kbps m4a で出力されます。 詳しくは、参照記事をご覧ください。
参照記事:「Apple Digital MastersのAAC音質(その3)」
ポイント
評価用音源で、高域の暴れが発生 していることが確認されました。
Apple DIgital Masters DropletアプリによるAAC変換は、レベルの低い録音からのAAC変換には適していません。 対策としては、ハイレゾ音源のレベルを上げるため、再ノーマライズを行う必要があるかもしれません。
AAC変換後のTag情報: 情報は引き継がれませんでした(引き継ぎ✕)
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以上「4つの視点」で再評価した、AACエンコーダ(アプリ)の結果報告でした。 この結果からレコードのハイレゾ化した音源をAAC変換するなら、「FFmpeg CLI アプリ」か「XLD CLI アプリ」を使うことをオススメします。