2019年7月付けの「Apple Digital Masters テクノロジー概要」によれば、iTunesやApple Musicで配信される楽曲は、「Apple Digital Masters テクノロジー」によって、最高レベルのクオリティでAACフォーマットで配信されると述べています。
そこで、Apple Digital Mastersで配信されたAAC音源がどの程度の音質レベルなのか?ダウンロード購入して評価してみることにしました。
Apple Digital Mastersについて
Apple Digital MastersでエンコードされたAAC256kbps音源は、マスターで作られた24ビットのオリジナル音源とほとんど区別がつかないクオリティになると述べています。
詳細は、2019年7月付けの「Apple Digital Masters テクノロジー概要」やApple Digital Mastersの紹介記事を見て頂くとして、Apple Digital Mastersテクノロジーによるハイレゾ・マスターファイルからApple Digital Masters AAC音源が配信されるまでのプロセス(概略)は以下の通りです。 尚、Apple Digital Masters AAC音源の配信は、特にクラシックジャンルにおいては未だ多くないのが実情です。
ハイレゾマスターファイル
Wavフォーマット【ビット深度24bit、ハイサンプリング(96khz)】
↓
Apple Digital Masters AACエンコードプロセス
↓
【ダウンサンプリング処理】
最先端のマスタリング品質サンプルレートコンバータ(SRC)を 使って
44.1khzに最適にダウンサンプリング
↓
【エンコード処理】
ディザリング無しで
ビット深度を24bitに維持して256kbpsのAACへエンコード
↓
Apple MusicやiTunesのカスタマーへ配信
ポイント
つまり、最高レベルのクオリティでAACフォーマットを得るために、ビット深度24bit、ハイサンプリングのハイレゾファイルを『(Step1)最適にダウンサンプリング(44.1khz)して、(Step2)ディザリング無し(量子化誤差対策のノイズ付加しない)でビット深度を24bitに維持して256kbpsのAACへエンコードしているテクノロジー』ということの様です。
ビット深度を24bitに維持してAACにエンコードするという考え方は、以下の当ブログ記事もご参照ください。
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ハイレゾ音源をMP3(AAC)にするなら、ビット深度を24bitに指定してエンコードすべき?
MP3(AAC)にエンコードできるフリーソフト(アプリ)は色々ありますがビット深度を明示的に指定できるものが殆ど無く、調べた中では唯一Windows版のfoober2000が指定できることが分かりまし ...
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Apple Digital Masters AACエンコードプロセスは実際に試してみることができます!
Apple Digital Mastersの紹介記事から「Apple Digital Mastersドロップレット」をダウンロードして、この中のApple DIgital Masters Droplet.appへAACに変換したいハイレゾ音源(24bit/96khzWave又はAIFFファイル)をドロップすると、同じフォルダー内にApple Digital MastersのテクノロジーでエンコードされたAACファイルが生成できます。(チュートリアル動画 参照)
尚、ドロップレットを使わなくても、Mac OS X のターミナルからコマンドライ ンで操作できます。 詳しくは、「Apple Digital Masters テクノロジー概要」をご覧ください。
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Apple Digital Masters音源を購入してみました。
Apple Digital MastersのAAC音質を評価するに当たり、1962年に録音されたカラヤン指揮・ベートーベン「交響曲 第8番 第2楽章」の音源をマスターにしたe-onkyoハイレゾ音源(96kHz/24bit FLAC)を基準音源にして、音質比較するために同音源のApple Digital MastersのAAC音源を購入しました。
なお、e-onkyoハイレゾ音源は当ブログ「ハイレゾ、CD及びLPレコードのトリプル音源・音質比較」でも使用しています。
音源がApple Digital Masterかどうかの確認方法
比較・評価する音源ファイルの情報(MediaInfoによる)
Apple AAC音源
iTunesから購入したファイル名
4-06 交響曲 第8番 へ長調 作品93_ 第2楽章_ Allegretto scherzando (SACD Stereo).m4a
フォーマット : AAC LC
e-onkyo FLAC音源
e-onkyoから購入したファイル名
ベートーヴェン 交響曲全集_31_Beethoven Symphony No.8 In F, Op.93 - 2. Allegretto scherzando[SACD Stereo].flac
フォーマット : FLAC
スペクトル比較
注意ポイント
評価する音源が異なるフォーマット(FLAC、AAC)では、夫々をデコードする際に音質差が生じる可能性が懸念されます。 そこで、Apple Digital Mastersでは、「Audio to WAVE 44.1k,48k,96K Dropletツール」が用意されていて、異なるフォーマットの音源をWavフォーマットに統一することでApple Digital MastersのAAC音源含め正確な評価ができるとされています。
そこで、今回のe-onkyoハイレゾFLAC音源とApple AAC音源の評価に当たり、1)Dropletツールを使わずオリジナルフォーマットのままで比較する場合と2)Dropletツールを使った場合の2通りで評価することにしました。
音源の全体波形
スペクトル比較−1 オリジナル音源ファイルでの比較
e-onkyoハイレゾ音源とApple AAC音源をオリジナルファイルのままAudacityに取り込み周波数分析(スペクトル)を行います。 周波数分析の条件は以下の通りで、分析した後分析データをテキストファイルに書き出してEXCELにてグラフ化し比較を行います。
【周波数分析の条件】
- 関数窓:hanning 大きさ:16384ポイント
- 解析対象パート:36秒を始点として、30秒間を選択します。(前記、全体波形のハイライト部分)
- 周波数分析データをテキストファイルに書出しExcelを使用しデータ解析します。
スペクトルの詳細を分かり易くするため、e-onkyoハイレゾ音源をA、Apple AAC音源をBとして、その差分(A-B)dbを下に示します。
ポイント
オリジナル音源の場合、差分(A-B)dbグラフで分かることは、絶対値で最大2.5dbの誤差がありました。 この誤差はAudacityのデコード性能に因っている可能性があります。 このデコード差を排除するために、DropletツールでWaveファイルに夫々を統一してスペクトルを比較してみたのが下記になります。
スペクトル比較−2 DropletツールでWavファイルに統一して比較する
スペクトル比較の手順
step
1各々ファイルをWavファイルにデコードする手順
正確なスペクトル比較を行うために、フォーマットに対するデコーダーの差を無くす必要があります。 そのために、e-onkyoハイレゾ音源のFLACとApple AACを、Appleから提供されているAudio to WAVE 96K Droplet.appツールを使ってWavファイルに統一します。
「Apple Digital Mastersドロップレット」は、Apple Digital Mastersの紹介ページのマスタリングツールの中のリンクからMacbookにダウンロードします。
4つのドロップレットで構成されていて、96khz 24bit Wavファイルにデコードするには、Audio to WAVE 96K Droplet.appを使います。
夫々のファイルをAudio to WAVE 96K Droplet.appにドロップして96khz 24bitのWavファイルに変換します。
step
2Wavファイルを周波数分析します
夫々の音源Wavファイル(96khz 24bit)をAudacityに取り込み周波数分析(スペクトル)を行います。 周波数分析の条件は以下の通りで、分析した後分析データをテキストファイルに書き出してEXCELにてグラフ化し比較を行います。
【周波数分析の条件】
- 関数窓:hanning 大きさ:16384ポイント
- 解析対象パート:36秒を始点として、30秒間を選択します。(前記、全体波形のハイライト部分)
- 周波数分析データをテキストファイルに書出しExcelを使用しデータ解析します。
ポイント
夫々のスペクトルは22khz付近までほぼ一致していて、ナイキスト周波数(22.1khz)以上からApple AAC音源はカットされているのが分かります。 スペクトルの詳細を分かり易くするため、e-onkyoハイレゾ音源をA、Apple AAC音源をBとして、その差分(A-B)dbを下に示します。
下の(A-B)dbグラフで分かる様に、2khz付近までの誤差は殆ど無く、最大でも誤差は0.5db程度に収まっていました。 この程度の誤差であれば、聴感上判別出来ないレベルと推察します。 ナイキスト周波数に向かって徐々に誤差が大きくなる傾向は、サンプリング数の減少による影響ではないかと思われます。
差分スペクトル
試聴比較
注意ポイント
比較する音源が異なるフォーマット(FLAC、AAC)なので、前記スペクトル比較と同じ様にフォーマットに対するデコードの影響を配慮して、我が家のB級ステレオで以下の2通りで試聴比較を行いました。
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- オリジナル音源をSony HAP-Z1ESに取り込んで試聴
- フォーマットに対するデコードの影響を無くすためにオリジナル音源を一旦Dropletツールを使ってでWavに変換後、HAP-Z1ESに取り込んで試聴
試聴比較−1 オリジナル音源ファイルでの比較
ポイント
e-onkyoハイレゾ音源とApple AAC音源をオリジナルファイルのままSony HAP-Z1ES(HDDプレーヤ)に取り込んで我が家のB級オーディオで試聴比較しました。
試聴結果
e-onkyoハイレゾ音源とApple AAC音源の音質の差は殆ど感じれれませんでしたが、僅かにe-onkyoハイレゾ音源の方がストリングスのディーテイルと深みを感じました。(HAP-Z1ESのデコーダ差かプラシーボ効果かもしれません)
試聴比較−2 DropletツールでWavファイルに統一して比較する
ポイント
異なるフォーマット(AAC、FLAC)をHAP-Z1ESで再生(デコード)した時の音質差を排除させるために、夫々のオリジナル音源(AAC、FLAC)をDropletツールを使って24bit/96khzののWavに統一したファイルをHAP-Z1ES(HDDプレーヤ)に取り込んで我が家のB級オーディオで再生した場合の音質比較を行いました。
(注記:Apple AAC音源は44.1khzでダウンサンプリングされていますので、本来はAudio to WAVE 44.1K Droplet.appを使ったほうがファイルサイズ約半分になりますのでベターです。)
試聴結果
DropletツールでWavに変換したファイルをHAP-Z1ESに取り込み再生した場合、双方のファイルの再生音質は全く区別がつきませんでした。 また、その音質はe-onkyoハイレゾFLAC音源と同じ音質に感じました。
マ ト メ
- スペクトル比較−2、試聴比較−2の結果から、 Apple Digital Mastersに適応したエンコーダーであれば、Apple Digital MastersによるAAC音源は、AACのビットレートから来る再生上限周波数で若干劣るものの、元のハイレゾ音源と略同等の音質が得られるものと思われます。(iPhoneでApple Musicストリーミングを再生する場合、iPhone設定からミュージック>モバイルデータ通信>高音質ストリーミングをONにします。)
- Apple Digital MastersによるAAC音源の音質に不満があれば、デコーダーがApple Digital Mastersに適合していないかも知れません。 そこで一手間かけて「Audio to WAVE 44.1K Droplet.appツール」を使って24bit/44.1khzのWavフォーマットに変換すれば、サンプリング周波数はダウンサンプリングされているので、若干見劣りしますが、ビット深度が24bitのハイレゾ音源ファイルで再生できます。(24bit/44.1khzのWavは、JEITAでのハイレゾ定義に含まれます) 一度お試し頂ければと思います。
今後、Apple Digital MastersによるAAC音質を、ピュアー音源やレコードのハイレゾ化音源などで深堀り評価を行ってみたいとと思います。
以上、Apple Digital MastersのAAC音質(その1)でした。 オーソドックスながらもAppleの地道な音質向上の取組を評価したいと思います。
「その2:ピュアー音源による評価」へ続くここをクリック
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