CDフォーマットのサンプリング周波数は44.1khzでビット深度は16bitです。 特にビット深度は録音レベルが低下するに伴い音質に問題が生じます。 CDの開発時点では先端技術で市場を席巻しましたが昨今のハイレゾから見て裕度の低い規格ではないかと思っています。
録音信号レベルをパラメータにした1khz sin波ファイルを使った簡単な比較実験を通してデータに基づいたCDフォーマットとハイレゾ(24bit)との音質比較を行い、当ブログのテーマである「レコードをハイレゾ化」する意味を紐解けたらと思います。
なお、当然ながらアナログレコードにあっては、音質を悪化させる、サンプリング周波数やビット深度の要因が無いことは言うまでもありませんが、アナログレコードのダメな点も多々あります。 詳細は以下の記事をご参照ください。
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参考アナログ・レコードのここがダメ「CD音質と比較して」
これまでの当ブログ記事(テストレコードなどのブログ)の知見を通して、アナログ・レコードが音質的に不利な点が多々見つかりました。 アナログレコードの音質を好ましく思っている一人で、本当はあまり言いたくは ...
参考
ハイレゾの定義
JEITAのいうハイレゾ音源とは量子化ビット数(ビット深度)が16bitを超えるか又はサンプリング周波数が48khzを超える音源と定義しています。
例えば、「44.1khzで24bit」や「96khzで16bit」ならハイレゾ音源になります。
但し、今回の実験に依れば、サンプリング周波数を高めただけの16bitは、量子化ノイズの点で避けるべきと思われます。
CDのサンプリング周波数が44.1khzのこと
CDのサンプリング周波数は44.1khzですので、サンプリング定理から録再帯域を22.05khz(ナイキスト周波数=44.1khz/2)以上でハイカットしなければなりません。 もしハイカットしないと不要なエイリアシング(折返し)ノイズが発生してしまうからです。
下にエイリアシングノイズの例を示します。 このスペクトルは、Audacityソフトに付属しているジェネレータのトーンからノコギリ波を作成してCDフォーマットでファイル化した時のスペクトルです。 ノコギリ波は、ナイキスト周波数(22.05khz)以上の倍音成分で折返され、CDの再生帯域で盛大にエイリアス(折返し)ノイズが発生しています。
巷では、アナログと比較してCDの再生帯域が22.05khz以上でハイカットされてストリングスの倍音成分が再生出来ない等を捉えてダメ出しされることが多いのですが、クラシックレコード(特にストリングス)をハイレゾ化してスペクトルを見ると周波数が高くなるに従い音圧が低減する(1/f特性)ので22.05khz付近では耳や身体で知覚できる様な音圧成分は殆ど無いことが分かります。 私見ながら、エイリアシングフィルターが完璧であればサンプリング周波数が44.1khzだからと言ってCDがダメだとは思われません。
ハイレゾ(ビット深度:24bit)に比較してCD音質のダメな点は、CDが16bit であるが故に量子化ノイズ(詳しくはここ)が不利になる点にあるのでは無いか? その点を以降で詳しく述べて行きます。(2021/4/12追記)
CDフォーマットにおけるビット深度と微小信号記録時の波形
ビット深度が16bitなら、測定できるポイントは、2の16乗ですので、フルスケールで65536の測定ポイントがあります。 (Dレンジで言うと96dbですね)
例えば、入力信号が1khzの正弦波で10vp-pの信号を記録すると、65536の測定ポイントがあり1ポイント当たりの最小測定電圧は、153uvということになります。
では、1khzの正弦波で入力電圧が微小の306uvp-p(-90dbFS)を記録しますと1bit分(2値)の分解能しかとれず、その時の波形は、下のように正弦波と異なる信号劣化した階段状の波形になります。 これが後から述べる量子化誤差になります。
一方、ビット深度24bitのハイレゾの場合、1khzの正弦波で入力電圧が微小の306uvp-p(-90dbFS)を記録すると9bit分(512値)の分解能がありますので、その時の波形は、下の様に、16bitとは違って綺麗な正弦波が再現されます。
bit深度とdbFSの関係
dbFSとは、フルスケール(FS)に対するレベル比を示します。
CDフォーマットの16bit場合
16bit(2^16)値をフルスケールとして、n bit(2^n )の値をデシベル換算すると、「dBFS=20×log10 (2^n/FS)=20log2^n - 96」になります。
ハイレゾの24bitの場合
一方 ビット深度が24bit(ハイレゾ)の場合 dBFS=20log2^n - 144になります。
※以上のように、ビット深度が16bitと24bitを比較すると、その差は8bitで24bitの方が256(48dbFS)倍の裕度があるということになりますね!
1khz sin波 CDフォーマット・テストファイル作成
種々の微小信号用テストファイルをAudacityで作成するのは面倒ですので、WindowsソフトのWaveGeneを使えば一発で録音信号レベル「-☓☓dbFS」ファイルを作成できます。
以下のテストファイルは全てWaveGeneで作成しています。
1khz sin波 -☓☓dbFS信号のCD vs ハイレゾ波形比較
レベルを変えて作成した16bit時と24bit時の1khz信号テストファイルをAudacityに取り込み正規化(増幅)した後の波形比較を行いました。 24bitの場合は、-96dbFSにおいてもビット深度に余裕があり階段状の波形になることはありません。
1khz sin波 | 16bit(fs=44.1khz)波形 | 24bit(fs=44.1khz)波形 |
-48dbFS | ||
-60dbFS | ||
-78dbFS | ||
-90dbFS |
CDフォーマットにおける量子化ノイズ
量子化ノイズとは
本来の正弦波から乖離した量が量子化ノイズ(=誤差=歪)ということになります。
Weblio辞書のによりますと、量子化ノイズ 【quantization noise】とは、
『アナログ信号をデジタル信号に変換(A/D変換)した後、アナログ信号に再変換(D/A変換)したとき、階段状の波形になるなど元の信号とはわずかに異なった波形になってしまう。 この差を量子化ノイズという。 量子化ノイズはA/D変換→D/A変換に際して原理的に避けられない信号劣化である。』と説明しています。
例えば、1khz sin波 -20dbFS のビット深度 16bit(fs=44.1khz)でのスペクトルを見ますと、基本波以外に信号劣化による高調波(雑草のように見える)成分=> 量子化ノイズが発生しているのが観測できます。
では量子化ノイズの音を聴いてみます。
量子化ノイズのある劣化信号と純粋な信号を引き算すれば、量子化ノイズのみが抽出された信号になる筈です。
そこで、16bitの-90dbFS 1khz sin波のテストファイルと量子化ノイズ的に有利な24bitの-90dbFSのテストファイルをAudacityに取り込みます。 レベルが微小なので夫々の信号を予め正規化(増幅)させておきます。 次に24bitファイル信号を引き算するため、上下反転(位相を180°)させます。 16bit信号と反転させた24bit信号をミックスさせれば、量子化ノイズが抽出できます。
この手順で実験したのが以下になります。
16bit -60dbFSの量子化ノイズ
CDフォーマットの歪率(THD+N)を測定してみる
ここまで来ますと、量子化ノイズによる歪率がどの程度のものか、測定してみたくなりますね。
歪率を測定するために、WindowsソフトのWaveGeneの姉妹ソフトであるWaveSpectraを使用させて頂きました。
測定手順ポイント
CDフォーマット(16bit)とハイレゾ(24bit)
歪率測定結果
注意ポイント
- ハイレゾ(24bit)の方が3桁以上歪率が有利であることが分かります。
- このデータは、ネットに掲載されていたTI社「限界性能への挑戦と音質へのこだわり」にある「図-7 PCM1792ATHD+N特性測定例」のデータとほぼ符合しており、今回の実験の正しさを裏付けしていると思われます。
CDフォーマットでのサンプリング周波数の影響は?
1khzのsin波でしたが、サンプリング周波数に近寄る(1周期のサンプリングポイントが疎らになる)と量子化ノイズや歪率がどうなるのでしょうか? 5khzと10khzでのsin波で調べてみました。
注意ポイント
サンプリング定理によれば、「サンプリング周波数の半分、つまりfc=22.05khz以上をフィルタリングすることで、エイリアシングの無い元の信号は正しく復元される」となっています。 fcに近づくとサンプル数がままばらになってきますので、例えば、微小信号時の5khzと10khz sin波の場合の波形がどうなるか興味のあるところでした。(10khz sinの場合サンプル数は1周期あたり4点しか測定できません。)
- 量子化ノイズの波形は、1khzのときの-90dbFS波形が階段状でしたが、上の様にサンプリングが疎らになった影響で、似ても似つかない波形となっています。
- 一方、歪率(THD+N)では、サンプリング数が疎らになるに従って歪率は悪化する傾向ですが、その差は軽微でした。 これはサンプリング原理ため高調波成分をカット(fc=22.05khz以上をハイカットしている)しているためと思います。
今回の実験の考察
CDで再生されるストリングスの音は何故、違和感を覚えるか? (推定編)で使った、実際のベートーベン交響曲 第8番 第2楽章の一部のスペクトルから考察してみます。
網掛け部音圧レベルからCDフォーマットの歪率(THD+N %)に置き換えてみますと、2khz付近で-40dbですので歪率は0.2% 5khz付近で-60dbなので歪率は1.5% 10khz付近で-80dbなので歪率は10%以上になる筈です。
このようにCDフォーマットで音が弱音(ピアニッシモ)になればなるほど歪率(量子化誤差)が悪化するという現象が生じます。 (当然ながらアナログレコードでは量子化誤差は皆無でこの点はアナログレコード優位です)
この歪率が聴感上で認識できるか否かは別にして、これをどうみるか? 例えば一般AMPの歪率からみれば相当悪くオーディオマニアなら敬遠する値いと言わざるを得ません。 また、量子化ノイズの波形は階段状で奇数次高調波成分が多く、このノイズは、人に不快感を与える鋭く粗い音になるのも気になる点です。
量子化ノイズ対策(ディザリング)について
レコードをPCMで録音する場合は、フォルテでのクリップを避けるために録音レベルを相当に下げる必要があります。 そのため16itで録音すると自ずからビット深度が浅い状態で記録され量子化ノイズの影響を受けやすくなります。 つまり、16bitでは録音レベルの裕度が無いということです。
録音裕度を上げるには、少なくも24bit以上、つまりハイレゾで録音することが必須と思います。 CDフォーマットで出力したいなら、先ず24bitで録音した後、正規化し16bitに出力すれば量子化ノイズを極力避けられると思います。(多分現在のプロのCD制作においては、少なくも24bit以上のビット深度を有する機材を使用した録音ではないかと思います)
CD開発当時の音質に不評をかったのは、CDフォーマットが予想以上に録音裕度がないことから由来しているのでは無いか?つまり、細心の注意をはらってマスタリングを行わないと量子化ノイズによる音質劣化を招くことは想像に難くありませんね。 また、デジタル録音の初期にPCM録音と銘打ったレコードが出回りましたが、違和感を覚える音質だったこともこの点に由来しているかもしれません。
ハイレゾ化の意味は、再生よりも録音にメリットがある様に思いました。 その意味でもレコードのハイレゾ化は合理的な録音方法と思った次第です。
CDフォーマットのここがダメ「ハイレゾと比較して」(マトメ)
ポイント
- 例えばクラシックのオーケストラのスペクトルを見ると、-80dbFSまで存在する可能性があり、CDフォーマットでは、量子化誤差から来る歪率が数%(THD+N)オーダーで含まれる可能性がある。 聴感上認識できるか否かは別にして、この歪率レベルはオーディオAMPの歪率レベルから見ても看過できないレベルではないか?
- 量子化ノイズは階段波状であることから奇数次高調波成分が多く含まれるので聴感上に違和感をもたせる可能性がある。
- 信号源の周波数が高くなる(fc=22.05khzに近づく)とサンプリング数(標本化数)が疎らになり波形は歪むが高調波成分がカットされ歪率にはあまり影響しない。(サンプリング定理)
- ハイレゾ(ビット深度24bit以上)で録音することで量子化ノイズが軽減され、録音レベルに裕度が増える。
→量子化ノイズが皆無の「アナログレコード」をハイレゾ化することにメリット
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参 考レコードのハイレゾ化のススメ
レコードのハイレゾ録音のヒントをご紹介します。これまでの経験から、必要なポイントやコツを書き留めましたのでご参照ください。 B級オーディオとしての視点からお届けします。 「ハイレゾ録音へのヒント(Ti ...
今回の実験を通してCDのウィークポイントを述べてきましたが浅薄な素人の実験ゆえ、見落としがあるかもしれません。 お気づきの点があればご指摘頂ければと思います。
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