前回ブログの正弦波の組合せで作ったエイリアシングノイズの無いノコギリ波(ピュアー音源)をVinylStudioでインポートした後、MP3、AACへ夫々出力したピュアー音源ファイルのスペクトル比較を行ってみることにしました。
結果から言いますと、夫々のスペクトルを比較すると、MP3よりAACの方がスプリアスノイズが少ないことが判りましました。
スプリアスについて、ウィキペディアによれば
スプリアス(英: spurious)は、主として高調波から成る、交流信号に含まれる設計上意図されない周波数成分のことである
目 次
使用するソフトについて
- WaveGene:ピュアー音源を作成するWindows用ソフト
- VinylStudio:レコーディングソフトで、ピュアー音源をインポートしてMP3、AACをエンコード出力します。
- Audacity:音源ファイルを取込み波形や周波数分析します。 スペクトルデータはテキストとして書出し、Excelでグラフ化します。
ピュアー音源・ノコギリ波作成
WaveGeneで前回ブログ「音質評価用 ノコギリ波PCM音源の作成」手順の様に正弦波の組合せで2.5khzのノコギリ波を作成します。 WaveGeneへWave1から8まで、以下のパラメータをセットして5秒間、24bit、192khzのフォーマットでWAVファイルを出力(保存)します。
(画面よりはみ出たら、横にスクロールできます。)
パラメータ | Wave1 | Wave2 | Wave3 | Wave4 | Wave5 | Wave6 | Wave7 | Wave8 |
正弦波周波数 hz | 2.5k | 5.0k | 7.5k | 10.0k | 12.5k | 15.0k | 17.5k | 20.0k |
db | -20.0 | -26.02 | -29.54 | -32.04 | -33.98 | -35.56 | -36.9 | -38.06 |
作成したピュアー音源をAudacityに取込み、波形とスペクトルを見ますと、上記の表のパラメータの通り綺麗に正弦波が整列しているのが判ります。
このスペクトルは、WAVファイルとFlacファイルを同時に示していますが、両者は殆どスペクトルが一致していることが判ります。
ピュアー音源をVinylStudioでMP3、AAC出力
WaveGeneで作成したピュアー音源(24bit 192khz wavファイル)をVinylStudioに取込み、MP3及びAACに128kbpsと320kbpsにエンコード出力しました。 ファイル諸元は以下の通りです。
MP3ファイル 128kbps及び320kbps
サンプルレート : 48.0 KHz ビットレートモード : CBR モード 設定 : Joint stereo / MS Stereo 使用したライブラリ : LAME3.99.5
AACファイル 128kbps及び320kbps
サンプルレート : 48.0 KHz ビットレートモード : CBR モード設定 フォーマット/情報 : Advanced Audio Codec
MP3、AACファイルのスペクトル比較・条件
オリジナル24bit192khzのWAVファイルからVinylStudioで作成したMP3、AACフォーマットファイルをAudacityに取込み周波数分析します。
オリジナル24bit 192khzのWAVファイルを基準にして比較しますので、MP3、AACを一旦Audacityに取り込んだ後、サンプリング周波数48khzから、基準の192khzに合わせるようにリサンプリングしてから周波数分析します。
Audacityによるスペクトル分析条件は、hanningでsize 4096、ピュアー音源の約5秒間を周波数分析します。 スペクトルデータはテキストとして書出し、Excelでグラフ化します。
それではMP3、AACのスペクトルの結果を示します
グラフの実線が、基準のオリジナル24bit 192khzのWAVファイルのスペクトルです。
❏ MP3 128kbpsの場合
理想は、青実線と赤点線が一致していることですが、15khz以上から、レベルは低いものの、スプリアスが頻発しています。 MP3の上限周波数のため、17.5khzが欠損しているのが判ります。
❏ MP3 320kbpsの場合
MP3 128kbpsに較べて、スプリアスが減少しています。 20khzの正弦波も再現されいます。
❏ AAC 128kbpsの場合
MP3 128kbpsに較べて、スプリアスが殆ど発生していませんが、スペクトルの裾の幅が広くなっています。 また、17.5khzが欠損無く存在しています。
❏ AAC 320kbpsの場合
MP3 320kbpsに較べて、スプリアスが殆ど発生していませんが、スペクトルの裾の幅が若干広くなっています。 20khzの正弦波も再現されいます。
❏ 参考として、CDフォーマット(16bit 44.1khz)の場合
AAC 320kbpsに較べて、スプリアスが若干多いことが判りますが、青実線と赤点線の裾の幅も略一致しています。 波形は、24bit 192khzに較べて8波のうねりが少なくフラットになっていました。
マトメ
ポイント
- スプリアスに着目すると、AAC 320kbpsが一番少なく、CDフォーマットに較べてもスペクトルは、素直であることが特筆すべき事と思います。 何故MP3において、スプリアスの発生が多くなるかの原因は、残念ながら浅薄なる知識のため思いつきませんが、MP3よりもスプリアスが少ないAACフォーマットに優位があるように思います。
- (注記)サウンドアプリに搭載されているAACエンコーダの違いで音質差が出る様です。 詳しくは、『サウンドアプリに搭載されているAACエンコーダを評価』で深堀りしています。(2019/8/22追記)
- MP3 128kbpsがスプリアスの頻発が多く生じており、若しかしてVinylStudio特有の問題があるのでは無いか?この懸念を払拭するため、試しにAudacityでMP3に変換してみたところ、同様のスプリアスの頻発がみられたので、VinylStudio的には、MP3のエンコードに問題はないと思います。
- MP3におけるスプリアスのレベル(-100db以下)は非常に低いので聴感上の音質に影響を与えるレベルではありませんが、例えばDSEE(Digital Sound Enhancement Engine)によるMP3やAACの高域補完機能に影響しないか?など、sony HAP-Z1ESにピュアー音源を取り込んでアナログ再生した時のスペクトルを再確認していきたいと思います。
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スプリアスの発生原因(追記)
EDN japanの記事の「デジタルオーディオで押さえるべき基本」によりますと、ビット深度が浅いと、量子化雑音が大きくなります。 これは、ビット数が少なくなりますとスプリアスが発生すると推察されます。 そこで、WaveGeneでピュアー音源を8bitに下げて生成・保存したWAVファイルのスペクトルを見ることにしました。
その結果、下図のグラフの通り、8bit 192khz WAVファイル(赤線の点線)で示されるグラフでは、推察通りスプリアスが頻発していることが観察できました。

注ポイント
MP3の場合にスプリアスが多くなる原因を推察しますと、MP3は、bit深度という概念は無い(ウィキペディア)とのことですが、上限周波数に近い領域で、bit深度が低くなるのと同様のことが生じているかもしれませんね。
以上、「ピュアー音源から見た「MP3、AAC」の音質比較」でした。
エンコード時のビット深度を24bitに指定した場合のスペクトルを再確認してみました(2020/2/20追記)
ポイント
当ブログ記事「サウンドアプリに搭載されているMP3(AAC)エンコーダのビット深度を調べてみました。」によりますと、「ハイレゾ(24bit)音源をMP3やAACにエンコードする時、サウンドアプリによってはビット深度を16bitに落としてエンコードされる場合がある。」とのことから、エンコード時のビット深度によって当初の投稿記事(前記)に齟齬が生じるかも知れないと思い、エンコード時のビット深度が指定できるwindows版foober2000を使用して、ビット深度を24bitに指定したエンコードファイルのスペクトル(スプリアス)を再確認してみることにしました。
以上の様に、foober2000で24bitにビット深度を指定してエンコードしても、当初の投稿記事の結果と同様に、MP3よりAACの方がスプリアスノイズが少ないことが再確認できました。
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