iPhoneのハイレゾ化アプリ「パイオニア・Stellanova(MSR機能:bit拡張と高域補完)」の実力は?

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Pioneer・Stellanova

2020年10月27日にパイオニアのMSR機能(マスターサウンドリバイブの略)を搭載したiPhone/iPad/iPod touch専用音楽アプリケーション・パイオニアの「Wireless Hi-Res Player ~Stellanova~」がアップデートされました。(詳しくは ここ をクリック)

このMSR機能は、iPhone内のCD音源や圧縮音源に対しては「bit拡張」と「高域補完」を行うことでハイレゾ相当で再生でき、ハイレゾ音源に対してはそのままスルーして再生できるようになるとのことです。

MSR機能の実力がどの程度か?興味がありましたので、AppStoreからiPhoneアプリのStellanovaを購入(1220円)し検証てみました。

検証方法は、iPhone(SE2)の音声出力をライトニンケーブルでM1-MacBook Airに接続しStellanovaアプリからの再生出力(デジタルのまま)を直接PCのAudacityで録音して録音されたファイルで評価しました。

MSR(マスターサウンドリバイブ)機能について

MSR機能については、パイオニアのネットページにある「音質復元技術」と思われます。 詳しくはここをクリックして参照してください。 以下はその特徴の要約です。

「音質復元技術」要約


  • 高度な量子化ノイズ検出と除去 機能=「bit拡張」

    CD音源の微小信号再生時には、相対的に量子化誤差(ノイズ)が大きくなるので、ビット深度をbit拡張することで、この量子化誤差を以下のイメージの様に減少させる様です。


  • レベルや次数まで制御可能な高精度「倍音復元」機能=「高域補完」

    これは、以前記事「SonyのHAP-Z1ESの真実」で評価した「DSEE」の「CD音源や非可逆圧縮音源の低域成分データから、カットされいる高域の倍音成分を推定し、カットされている高域に推定した倍音成分を付加し元の音源に復元する」高域補完と同じ様なものでは無いかと推察されます。


ポイント

私見ながら、以前の記事の「CD音質のここがダメ」にある様に、CDの音質は、高域よりもビット深度(16bit)から生じる量子化誤差(ノイズ)に問題があるのではないか?と思っています。 よって、MSR機能の中でbit拡張が本当に機能するかが興味のある所です。

+ CDの量子化誤差 詳細はここをクリック

CDの場合は、ビット深度が16bitですので、測定できるポイントは、2の16乗(65536)の測定ポイントがあります。 (Dレンジで言うと96db)  例えば、最大入力信号が1khzの正弦波で10vp-pの信号をフルスケール(0dbFS)とすると、65536点の測定ポイントが取れるので、1ポイント当たりの最小測定電圧は、153uv(-96dbFS)ということになります。 では、極端な例として1khzの正弦波で入力電圧が微小の306uvp-p(-90dbFS)を記録しますと1bit分(2値)の分解能しかとれず、その時の波形は、下のように正弦波と異なる信号劣化した階段状の波形になります。 

16bit -90dbFS波形(ノーマライズ-3db増幅)

この階段状の波形は、奇数次の高調波成分が含まれ、これが量子化ノイズ(=量子化誤差)になります。(スペクトルを見ると全帯域に奇数次の高調波成分が分布しています)

今度は、レベルを28db上げて16bit -78dbFSの場合は下の様に細かい階段状の正弦波になります。

16bit -78dbFS波形(ノーマライズ-3db増幅)

更に、レベルを上げて16bit -60dbFSの場合は、見た目は殆ど正弦波になりますが、量子化誤差は内在しています。 つまり、記録レベルが上がると量子化誤差の影響が相対的に減少することになります。 

16bit -60dbFS波形(ノーマライズ-3db増幅)

量子化ノイズが相対的に減少するので歪率が減少します。 実際の歪率で置き換えると、16bit -60dbFSで約1%THD+N「CDフォーマットのここがダメ」参照)になります。

リアルサウンドで考えますと、フォルテでの大きな音量レベルであれば、このノイズは殆ど影響しませんが微小なピアニッシモレベルになると、「デジタル臭い」と表現される硬質な音の傾向が生る可能性があります。

一方、ビット深度24bitのハイレゾの場合:1khz sin波(-90dbFS)であっても9bit分(512値)の分解能がありますので、下に示す様に、CD16bitとは違って階段状にはならず綺麗な正弦波が再現されます。 スペクトルを見ると量子化ノイズ(=量子化誤差)も桁違いに少なくなり、歪率で表すと -60dbFSの場合は約0.01%THD+N(CD16bit 対比:1/100)になります。

24bit -90dbFS波形(ノーマライズ-3db増幅)

「閉じる」

 

MSR機能「bit拡張」と「高域補完」の評価方法

iPhoneのStellanovaアプリで再生された評価用サウンドをライトニングケーブルを通してM1-MacBook AirのAudacityでダイレクトに録音したファイルで「bit拡張」と「高域補完」を評価します。 以下はその手順です。 

Audacity録音への事前準備


  • 評価用音源の作成

    1. 「bit拡張」用評価音源WindowsのWaveGeneで sin波 1khz -3db、-20db、-60db、-78db、のレベルを変えた4種類のWave(CDフォーマット:44.1khz 16bit)の評価用音源ファイルを作成しました。
    2. 「高域補完」用評価音源1964年録音 「ドボルザークの新世界より第4楽章 Karajan指揮 BPO」のCDをリッピングしXLDでAAC160kbpsに変換したリアル音源(圧縮音源)を作成しました。 

  • iPhoneへ評価用音源の取り込み

    評価用音源をM1-MacBook AirのiTunesに取り込みiPhoneのミュージックと同期させます。 iPhoneのミュージックアプリを開くと評価用音源がアルバムに挿入されていることを確認します。 Stellanovaアプリを開いてアルバムを下に引き下げてデータベースを更新します。 Stellanovaのアルバムを見ると評価用音源が在りますので、そのアルバムをタップし先頭の曲名(音源)をタップするとiPhoneのスピーカーから評価用音源が流れると思います。

    ミュージック アルバム

    Stellanova アルバム


  • iPhoneとM1-MacBook Airの接続

    予め、M1-MacBook AirのUSB-CにUSB Type-Aが接続できるアダプタを付けておきます。 iPhoneの充電用ライトニングケーブルでiPhoneとM1-MacBook Air同士を接続します。


iPhoneから出力された音声をAudacityで録音するための手順


  • Audio MIDI 設定

    Finder で、「移動」>「ユーティリティ」の順に選択します。Audio MIDI 設定アプリケーションを開きます。 そして、iPhoneをM1-MacBook Airに接続すると、☓☓のiPhoneが現れて「有効にする」をクリックします。 

    iPhoneからのMIDの転送フォーマットはサンプリング周波数44.1khz、ビット深度は24bitになります。 このため、Stellanovaアプリでサンプリング周波数が96khzまで「高域補完」されても、MIDの転送サンプルレートで制限された44.1khzでの「高域補完」の評価になります。


  • iPhoneからのサウンドをダイレクトにAudacityで録音

    Audacityを開きます。 下のAudacityの画面は、iPhoneに入れた「高域補完」用評価音源(XLDでAAC160kbpsに変換した新世界より第4楽章 Karajan指揮 BPOリアル音源)をAudacityで録音している状態を示します。 注意点は、赤丸で囲まれたマイク入力をiPhoneにすることです。


  • Audacityの録音が完了したら

    Audacityで録音したトラックを選択し ファイル > 書き出し > Wavで書き出し を選択し下の様にの24bitで書き出します。
    何故、Wavで書き出すかと言いますと、スペクトルを見るため、WindowsのWaveSpectraを使用するからです。


 

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Stellanova MSR機能「bit拡張」の効果検証(結果)

収録された「bit拡張」用評価音源の波形

Audacityで収録された1khz sin波形( -3db、-20db、-60db、-78db)を下に示します。 各レベルの波形を確認するので、各ポジションで適当な範囲を選択してエフェクト > ノーマライズ(正規化)を行こない波形の形状を観測します。

iPhoneで再生した評価音源をAudacityで収録

 

レベル 収録された1khz sin波形・比較【Audacityで正規化(増幅)後の波形】
Stellanova MSR機能「bit拡張」 ミュージックアプリ 「bit拡張」無し
-3dbFS 綺麗な正弦波(波形省略) 正弦波(波形省略)
-20dbFS
-60dbFS

若干の歪みが見られる

-78dbFS

「bit拡張」でsin波を維持

階段状の正弦波 発生

 

「bit拡張」による歪率改善効果

歪率を測定するために、WindowsソフトのWaveGeneの姉妹ソフトであるWaveSpectraを使用させて頂きました。

測定手順ポイント

測定手順は非常に簡単で、iPhoneで再生した「bit拡張」評価用音源をAudacityで収録したWave(16bit 44.1khz)ファイルをWaveSpectraにドラッグ&ドロップします。 再生ボタンを押して-3db,-20db,-60db,-78dbの再生位置でpauseボタンを押します。 

歪率測定窓にTHD(上段)とTHD+N(下段)が表示されます。 THD+Nとは、total harmonic distortion + Noiseの略で、全高調波歪にノイズを加えた基本波成分の比(%)です。

FFT条件)サイズは16384でHanning窓です。 

Audacityで収録された、「bit拡張」評価用の1khz sin波の各レベルでの歪率をプロットしたグラフを示します。 

Y軸(歪率)が対数目盛

Y軸(歪率)が直線目盛

MSR機能「bit拡張」効果 まとめ

上記の歪率(THD+N)グラフから、-40dbFS以下になるとStellanova MSR機能の「bit拡張」効果が現れ、歪率がミュージックアプリより大幅に改善されることが分かりました。 

これは、ハイレゾの24bitより劣るものの、CDフォーマットのビット深度(16bit)より上を行っています。 参考までに、「CD音質のここがダメ」で測定した歪率グラフを示します。

 

Stellanova MSR機能「高域補完」の効果検証(結果)

リアル音源での「高域補完」効果確認

Stellanovaの画面

CDリッピングした音源がどのように変化するかStepを追って「高域補完」の効果を確認してみました。 

なお、スペクトル測定は、WaveSpectraを使用させて頂いています。 WaveSpectraはWaveフォーマットのみの対応ですので、各音源は必要に応じてfoober2000でwavフォーマットに変換してスペクトルを描画しています。

 

step
A
CDリッピング オリジナル音源

「高域補完」用評価音源として、1964年録音 「ドボルザークの新世界より第4楽章 Karajan指揮 BPO」のCDをリッピングした音源ファイルです。

Down Load

Flac (16bit 44.1khz)

ポイント

第4楽章の冒頭スペクトル

20khz付近でハイカットされて、ノイズフロアーが-140dbになっている。

step
B
オリジナル音源をAAC 160Kbpsに変換

オリジナル音源をXLDでAAC160kbpsに変換した圧縮音源です。 この音源をiTunes経由でiPhoneに入れてStellanovaで再生します。

AAC 160kbps

ポイント

第4楽章の冒頭スペクトル

AAC160kbpsのため、上限周波数が約18khz付近でハイカットされている。

step
C
Stellanova(MRS機能)で再生した音源

iPhoneに取り込んだAAC160kbps圧縮音源音源をStellanovaアプリで再生し、M1-MacBook AirのAudacityで収録した音源です。

本来、Stellanova MSR機能は、サンプリング周波数96khzで48khzまで再生されるとのことですが、M1-MacBook AirのMIDの転送フォーマットが、サンプリング周波数44.1khz、ビット深度24bitです。 このため、サンプリング周波数が44.1khzですので最大再生周波数は22khz付近までになります、

Down Load

Wave( 24bit 44.1khz)

ポイント

第4楽章の冒頭スペクトル

「高域補完」の効果で21khz付近まで高域が補完されている。 また、ノイズフロアもビット深度が「bit拡張」効果で、-180dbFSに低下している。

 

ピュアー音源(2.5khzノコギリ波)での「高域補完」効果確認

「倍音復元」技術と言う意味から、2.5khz ノコギリ波 をAAC160kbpsに変換したファイルをiPhoneに入れて20khzが復元されるかを見てみました。 下のスペクトルから20khzに若干の成分が出かかっているものの、正確に復元されているとは思われませんでした。 以前の記事「SonyのHAP-Z1ESの真実」で評価した「DSEE」機能と同じ様な”味の素的”な高域補完レベルなのかも知れません。

 

 iPhoneアプリ:Stellanova(MSR機能)まとめ

先ず、ハイレゾに対する私見ですが「CD音質のここがダメ」で述べさせて頂いた様にハイレゾによる恩恵はビット深度が24bitになることで量子化歪(ノイズが指数関数的に変化を)を大幅に減少させることに意味があり、一方、実際のリアルサウンドでは1/f特性から可聴帯域の20khz以上の成分が殆ど無くなることからサンプリング周波数を高めて20khz以上に再生周波数を高めるハイレゾにはあまり意味がないよいように感じています。 

よって、Stellanovaの「高域補完」機能については基本サウンド部分を汚さなければ極端な話し、どうでも良い機能ではないかと思っています。 一方「bit拡張」機能が、重要な点で本当にbit拡張されるか否かが興味ある点でした。 

実はこのハイレゾ相当に変換すると言うStellanovaアプリを半信半疑で見ていて「bit拡張」機能をあまり期待していなかったのですが、特筆すべきことに前述の簡単なSIN波・実験を通してStellanovaの「bit拡張」機能がカタログ通りの効果を発揮していることが分かりました。 この「bit拡張」機能が効果を発揮すれば、手軽にiPhoneに保存された圧縮音源がハイレゾ相当にbit拡張され量子化歪が減少することが期待出来そうです。 

 

注意ポイント

一つ注意すべきことがあります。

Apple Digital MastersによるAAC音源ハイレゾ(24bit)音源を24bit対応・AAC(またはMP3)エンコーダで変換した圧縮音源などの再生は、Stellanovaの「bit拡張」を使う必要はないことに注意してください。 (例えばミュージックアプリでこの圧縮音源を再生する時には、24bitでデコードされる筈だからです)

要はCD(16bit)からのリッピング音源やCDからの圧縮音源などに対してStellanovaの「bit拡張」を有効にするのが効果的です。

参照ブログ記事

 

Stellanovaの試聴・結果

それでは、試聴結果は如何に?と言うことになりますが、残念ながらハイレゾ対応のイヤホンが無く、更に駄耳のため正確な評価出来ないのが本当のところですが敢えて、iPhoneSE2の付属イヤホン(イヤホンに内蔵のD/Aが24bitに対応しているか不明ですが)でStellanovaとミュージックアプリのそれぞれの再生サウンドを試聴比較してみました。 先ず評価音源の新世界を聴いてみると、ミュージックアプリのサウンドよりStellanovaの方が、大人し目に感じるも透明感が増した様に聴こえました。

また、別のピアノソロやバイオリンのソロでも、サウンドに深みが増し、引き締まってリアルに聴こえるように思われます。

結論として、iPhone用アプリ Stellanovaを1220円 で購入する価値は十分にあるように思いました。 iPhoneのミュージックアプリにある圧縮音源をハイレゾ相当の音質にして聴いてみたいと思われる方なら是非お試しください。

 

以上Stellanovaアプリの評価結果でした。 パイオニアの名の通りの地道な要素研究(開発)を今後も続けられる事を期待しています。

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