この度、ワグネリアンで自称グルネマンツさんから「ワーグナー:楽劇≪ニーベルングの指環≫メイキング・オブ・レコーディング」をお借りすることができました。
これは、英BBCが制作し、1965年5月16日放映されたドキュメントビデオです。 ショルティー指揮のニーベルングの指環は、ウィーン、ゾフィエンザールで1958年~1965年の足掛け8年の歳月をかけてDECCA所属のジョン・カルーショーがプロディースし、録音されました。
1958年は、全米レコード協会(RIAA)で45/45方式のステレオレコードが規格化された年で、各社からステレオLPレコードが発売される時期でもありました。
このドキュメントは、当時の最新鋭の録音機材を駆使し、ステレオLPレコードの制作に向け奏者、プロディースしたカルーショーともども熱気漲る雰囲気を記録したものです。 このドキュメンタリービデオを観て、以前 LPレコードからハイレゾ化したニーベルングの指環の中の「神々の黄昏」を再び聴き直してみたくなりました。
カルショーが使った最新鋭・録音機材
「ワーグナー:楽劇≪ニーベルングの指環≫メイキング・オブ・レコーディング」を観て、当時の録音機材を観てみましょう。 マイク、ミキシングコンソール、テープレコーダをスナップしてみました。
❏ マイクロフォン
マイク構成
- オーケストラ用で12本 (ポップスでは20本 オペラでは12本で十分とのこと)
- ステージマイク3本
- ブラウアーザール用で3本 オフステージ用2本
合計20本のマイクを使用されている様です。
❏ ミキシングコンソール
真空管では無く、当時としては出始めのソリッド・ステート(トランジスタ)で構成されている様です?
❏ テープレコーダ
画像を見る限り、3台以上のテープレコーダを使用している様です。 DECCAレコードのウィキペディアを参照すると、『1963年 アンペックス社の4トラック・テープ・レコーダーを使って録音した新シリーズ「フェイズ4」レコードを発売開始。』との記載があり、テレコは、アンペックス社製ではないか?と思います。
下の画像は、マスターテープ作製用のテープレコーダと思われます。 テープ幅は、1/4インチか?
それでは、カルーショーがプロディースした「神々の黄昏」を聴いてみます
ドキュメンタリービデオ「ワーグナー:楽劇≪ニーベルングの指環≫メイキング・オブ・レコーディング」を観て、レコーディングの雰囲気が判った上で、もう一度、LPレコードから録音したハイレゾ化音源を聴いてみますとこれぞ「ザ・アナログサウンド」と思わせるエネルギーを感じます。 良い悪いは別にして、カルーショーや同僚の録音技師もコンソールの前で、灰皿を横に置いて、タバコを吸っています。 歓談の席では、殆どの歌手(あのフィッシャー・ディースカウも)がタバコを吹かしていました。 今のデジタル録音スタジオでは絶対に禁煙でしょうね。 相当に飛躍しますが、デジタル録音は、透明感はあるものの、冷たく、中がスカスカしているデジタルサウンドと温かみのあるアナログサウンドの違いに一線を画すのは、こんな所にも一因があるかも知れません。 それにしても、当時の最新鋭の録音機材によるものか、カルーショーのマスタリングのセンス(技術)によるものか、50年以上前のアナログ録音であっても、後述の周波数分析では、40khz以上の周波数成分も存在し、さらに、当代の一流奏者と相まって、ショルティのニーベルングの指環は、不朽の名盤であることは間違いないものと思います。
以前ブログしました、「ワグナー ニーベルングの指環(全曲)のハイ・レコ(録音・寸評)」の中の「神々の黄昏」は、以下のとおりです。
あらすじは、ウィキペディアを参照頂くとして、このドキュメンタリーの中心は、「神々の黄昏」の後半からフィナーレを記録したものでした。 ドキュメンタリーの中で時間を費やしていたのは、赤枠で囲った「Side37とSide38」と思いますので、ここを注目して聴いてみました。(ニーベルングの指環のLPレコードは、全部で19枚組です。 Side37とSide38は、最後の19枚目のA面=Side37とB面=Side38に相当します。)
<歌手 Side37とSide38>
• ジークフリート(テノール):ヴォルフガング・ヴィントガッセン
• ブリュンヒルデ(ソプラノ):ビルギット・ニルソン
• グートルーネ(ソプラノ):クレア・ワトソン
• ハーゲン(バス):ゴットロープ・フリック
ここで、ハイレゾファイルからMP3(320kbps)にエンコードした、Side37とSide38をお聴きください。(ハイレゾファイル(DL)は、容量の関係で今回は割愛です。)
Side37
ジークフリートの死から始まり、間奏曲の「ジークフリートの葬送行進曲」に続きます。
Side38
「ブリュンヒルデの自己犠牲」の音楽から始まり、炎につつまれたジークフリートの亡骸の元へブリュンヒルデが愛馬と共に飛び込み、ギービヒの館やヴァルハルも炎上し、指環も元のライン川に戻り幕となります。
ショルティ盤とカラヤン盤の比較(周波数分析など)
ショルティ盤もさりながら、カラヤン盤も名盤とされています。 そこで、両者のサウンドを比較するため、周波数分析(スペクトル)と聴き比べを行ってみました。 分析対象とするパートは、LPレコードからハイレゾ化(192khz 24bit)した「ジークフリートの葬送行進曲」のフォルテパートです。
以下の周波数分析で明らかな様に、ショルティ盤の方が帯域が広く音質的に優位に見えました。 実際に聴くとどうなるか、我が家のB級ステレオで両者を聴き比べてみたところ、やはり、ショルティ盤の方がダイナミックレンジも広く、低域から高域まで見通せるサウンドでした。 一方、カラヤン盤は、ベルリン・フィルの演奏は美しく、音質的にも透明感がありバランスがとれているものの、こじんまりしていて、物足りなく聴こえてしまいます。
それにしても、ショルティとカルーショーのコラボで8年も続いたのは、驚異的です。 普通、プロデューサーからあれやこれや指示されたり、録音の撮り直しをされるのは、指揮者や演者にとって非常に苦痛と思われるからです。 例えば、スタジオ録音を嫌ったクナッパーツブッシュは有名ですが、この一因が、カルーショーにあったかもしれません。 8年もの間、ショルティとカルーショーがコラボできたのは、双方がリスペクトし、我慢できたからでは無いかと想像できます。 レコード会社が違うので実現できないでしょうが、帝王カラヤンとカルーショーであったら、8年のコラボは絶対に無理でしょうね。
以上から、総合すると、やはりショルティ盤に一票いれます。
<ショルティ盤・スペクトル>
50年前の録音機材ながら、40khz以上まで高域成分がLPレコードに記録されていました。
使用カートリッジは、オルトフォンのMC20です。
<カラヤン盤・スペクトル>
カラヤン盤「神々の黄昏」のLPレコードからハイレゾ化したファイルを上と同じパート部分の周波数分析を行いました。 カラヤン盤の「神々の黄昏」は、1970年ベルリン、イエス・キリスト教会で録音されたものです。
高域成分は、ショルティ盤より高域の減衰量は多いですが、減衰形状は自然な減衰になっています。 これは、カルーショーの「ニーベルングの指環」の録音から10年程経過してオーディオ技術的にも進歩している証かも知れません。 カートリッジは、DL103Rを使用しています。
カルーショーがプロディースしたショルティ指揮ニーベルングの指環(全曲) の記事もご覧ください。
以上、「神々の黄昏」とジョン・カルーショー でした。