カラヤン指揮・Beethoven ”交響曲8番”第2楽章 イエス・キリスト教会での1962年録音をベースにした、e-onkyoのハイレゾ音源、CD音源、LPレコードからのハイレコ音源のトリプル音源の音質比較を試みました。 また、評価指標として、周波数分析した後、周波数ブロック単位の相関係数を使用することで可視化指標のツールとなり得るかも考察しました。
音質評価対象として、Beethoven”Beethoven”交響曲8番”第2楽章 ”を選んだ理由は、ストリングスのパートが豊富で、ストリングスの音色評価を行うのに最適と思われたからです。
目 次
トリプル音源について
音源
1 ハイレゾ音源ファイル
e-onkyoの「ベートーヴェン: 交響曲全集」の中から「交響曲8番 第2楽章」を購入ダウンロードしました。 ファイルフォーマットは、24bit 96khzのflacファイルです。 また、「独Emil Berliner Studios制作2003年DSDマスター使用」とのことでした。
音源
2 CD音源ファイル
今回も、「クラシック音楽へのおさそい~BlueSkyLabel~」のflacデータベースを使用させて頂きました。 ファイルフォーマットは、16bit 44.1khzのflacファイルです。
音源
3 LPレコードから収録したハイレコ音源ファイル
LPレコードから、GT40αでAD変換しVinylStudioでハイレゾフォーマット24bit 192khzで録音し、プチノイズ抑制処理をしています。 また、各音源の再生スピードに合わせるため、Audacityで微調整しています。 ハイレゾタブのダウンロードボダンを押すと、ハイレコ音源がダウンロードできます。
カラヤン指揮・Beethoven ”交響曲8番”第2楽章 イエス・キリスト教会での1962年録音
MP3 48khz 320kbps
トリプル音源の波形
- LP(ハイレコ)以外の各音源は、Audacityで周波数分析するため、192khzにリサンプリングしています。
- CD音源の音圧レベルが若干低い様です。
トリプル音源の音質 聴感評価
各トリプル音源を「我が家のB級オーディオシステム」で再生しストリングスの音質をフォーカスした聴感評価を行いました。
音質順位:LP(ハイレコ)音源→ハイレゾ音源→CD音源でした。
- LP(ハイレコ)音源は、全体的に透明感があり、ストリングスも自然に聞こえます。
- ハイレゾ音源は、全体的なバランスが取れていますが、ストリングスが奥まっている感じです。
- CD音源は、解像感が乏しく、ストリングスも冷たく硬い感じです。(一般的に言うCD音質です)
「LP(ハイレコ)音源」が聴感上で最高評価になった! 下の記事が裏付けになるかも知れません。(2024/2/23追記)
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CDに比べてレコードには下に示す多くの欠点があります。 それでもレコードの音質が好まれる理由は何でしょうか?ネット上では納得のいく説明が見つかりません。 本記事では、CDと比較してレコードの音質が好ま ...
周波数分析と相関係数による解析
❏周波数分析の条件
関数窓:hanning 大きさ:16384ポイント
解析対象パート:36.475秒〜30.021秒間
周波数分析データをテキストファイルに書出しExcelを使用しデータ解析します。
❏相関係数について
各音源に対する周波数と音圧レベルデータから、周波数を1khz毎にブロック分けし音圧レベルの相関係数を算出します。計算はCORREL(コリレーション)関数を使います。
1khz幅での音圧レベルの相関係数を見ることで、比較する音源の相関の強さが判り、どの周波数帯に対して近似しているかが可視化できるのでは無いかと考えました。
❏CD音源 vs ハイレゾ音源 <相関係数とスペクトル>
❏ CD音源 vs LP(ハイレコ)音源 <相関係数とスペクトル>
❏ ハイレゾ音源 vs LP(ハイレコ)音源 <相関係数とスペクトル>
❏ 参考:LP(ハイレコ)音源 vs ハイレコのCDフォーマット化 音源(downgrade) <相関係数>
※以前ブログ(簡易検証編その2 「CDで再生されるストリングスの音は何故、違和感を覚えるか?」)のデータファイルから相関係数をグラフ化しました。
各音源の相関係数で判ること(まとめ)
- 参考:LP(ハイレコ)音源 vs ハイレコのCDフォーマット化 音源について,ハイレコ音源を単純にCDフォーマットにdowngradeしたものとの相関係数は、1khzから19khzまで相関係数の数値が1で完全な相関でした。 この両者の音源ファイルを聴感比較してみますと殆ど区別がつきませんでした。
- CD音源 vs ハイレゾ音源について、CD音源及びハイレゾ音源の録音マスターファイルが同一で単純にCDフォーマットだけの違いであるなら、参考で示した上図の様に19khzまで相関係数は、0.9以上の「ほぼ完全な相関がある」筈ですが、CD音源 vs ハイレゾ音源での相関係数は16khz以上から急激に暴れています。 この高域暴れの原因は、両者の録音マスターソースが相違しており、僅かに再生速度の違い等で高域の周波数分析に影響され相関係数に暴れが生じたのではないかと推定されます。 一方、聴感上は、ハイレゾ音源に軍配が上がっています。 この差はどこから生じるのか? 相関係数の16khz以上の暴れから来ているのか? それとも、可聴の音圧レベルを−90db以上として、7khz以上から12khzの範囲で、相関係数の値が、僅かに低下しいるからか? 残念ながら相関係数の値からでは、明快な説明は困難でした。
- CD音源 vs LP(ハイレコ)音源、ハイレゾ音源 vs LP(ハイレコ)音源 について、先ず16khz以上の高域で相関係数の暴れが生じている原因は、LPレコードの再生速度誤差(プレーヤの回転数やワウ・フラッター等の性能)により高域の周波数分析が影響され相関係数の暴れが生じているものと思われます。 一方、聴感上最も優位であったLP(ハイレコ)音源との相関係数の関係は、可聴の音圧レベルを−90db以上として、7khz以上から12khzの範囲で、相関係数の値を見ると、ハイレゾ音源の方がCD音源比べて、僅かに数値が高く、LP(ハイレコ)音源の方が相関が強いことが判ります。 聴感上の各音源の音質順位を是として、7khz以上から12khzの範囲での相関係数をみるとその傾向は合致していると言えますが、残念ながら、相関係数で明確な差を説明できず、また、相関係数は相対的な相関の強さを示すもので、評価対象音源の絶対的な優位性を示すもでもないということです。
ココがポイント
以上をマトメますと、参考で示しました様に、ハイレコのCDフォーマット化 (つまり、ハイレゾ音源からCDフォーマットへダウングレード)した場合、ハイレゾとの聴感上の音質劣化の要因は殆ど無いと思われます。
今回のテストケースで、何故CD音源のストリングスに違和感を感じるか?の要因は、CD音源の録音マスターそのものに音質悪化要因(例えばダビングを重ねたマスターからCDが作られたなど)があるか、若しくはCD作成上のプロセスの何処かに音質悪化要因があるのでは無いかと思われます。
つまり、メディアの音質を左右する要因は、メディア作成のマスター音質の優劣(鮮度)で決まると言うことで、LPレコードに優位性があるのは、後発のCDよりも若い世代(ダビング回数が少ない)の音質鮮度の高いマスターが使われる確率が高いからかも知れません。
- 相関係数の利用について、LP(ハイレコ)ファイルをCDフォーマットやmp3フォーマット等へ変換した時の音質比較は、デジタル処理でのフォーマット変換であり(再生速度に無関係)、フォーマット違いによる音質比較ツールとしては有用ではないかと思います。 しかし、一般市販CDとLP(ハイレコ)の相関係数による音質比較は、LPレコードの再生速度誤差に影響を受けることや絶対比較にはならないので、参考データ程度に止めるべきと思われます。
明快な結論には至りませんでしたが、以上 トリプル音源の音質比較でした。
イコライジングで相関係数は変化するか? (追記)
音源ファイルを、Audacityで左の様に1khzの点から2khzへ12dbUPさせた時、相関係数に影響されるか?を調べてみました。
以下のグラフように、元のオリジナルファイルと12dbUPファイルの相関係数は、
イコライジングの変位点で、相関係数の低下は見られますが、イコライジングによる影響は受けないことが判ります。