
過去記事では、1966年に録音されたカラヤン指揮BPOが演奏する「ムソルグスキー:展覧会の絵」のレコードを往年のカートリッジ3機種(オルトフォンMC20、シュアーV15-Ⅲ、DENON DL-103R)でハイレゾ収録した音源と、スペクトル評価用のためにe-onkyoからダウンロード購入したハイレ音源でスペクトル分析と試聴比較を行いました。 その結果はスペクトル分析評価と試聴結果ともにその順位は MC20>DL103R>V15 の順でした。
今回は、Spectrogram Viewerツール(詳しくはここをクリック)を使用し、「展覧会の絵」の収録曲「バーバ・ヤーガの小屋」に含まれるシンバル音等にフォーカスします。 ハイレゾ音源とカートリッジ3機種の再生音源をスペクトログラムで可視化し、高域成分、倍音成分などにどのような違いが現れるのかを改めて検証しました。
本記事では、3機種のレコードカートリッジによるシンバル等の再生音の違いを、スペクトログラム画像で検証したところ、耳による試聴だけでは捉えにくい特徴もスペクトログラム画像として確認でき、大変興味深い結果が得られましたので紹介します。
スペクトログラムで評価するレコード音源(3種類)とハイレゾ音源
レコード音源(3種類)

LPレコード音源は、グラモフォンレーベル、1966年録音・カラヤン指揮BPOの「ラベル編曲・ムソルグスキー展覧会の絵」の中から「バーバ・ヤーガの小屋」を3機種のカートリッジで再生し、VinylStudioで96khz 24bitのFlacフォーマットでハイレゾ収録した音源です。
注記:カートリッジV15-III のスタイラスは、 日本精機宝石工業 シュアー「V-15TYPE3」用交換針 VN35HE-楕円針(JICO)に交換しています。
ハイレゾ音源
e-onkyoから「バーバ・ヤーガの小屋」をダウンロード購入しました。 e-onkyoから購入したハイレゾファイルは、LPレコードと同一の録音由来のソースで、96khz 24bitのFlacフォーマットでハイレゾ音源です。
注記: 「e-onkyo music」は、2024年10月16日の正午に20年近い歴史に幕を下ろし、「Qobuz(コバズ)」に統合されました。同一音源の「展覧会の絵」を「Qobuz」で検索したところ、ハイレゾには対応しておらず、CDスペック(16bit 44.1khz)のDL購入のみの様でした。
スペクトログラム分析時間
Spectrogram Viewerツールの分析時間設定は、シンバルが強調されたパート部分(33秒前後)から10秒間に設定しています。
(注記:シンバルの位置は、各音源の開始時間で若干バラツキます)
スペクトログラム画像で見る、ハイレゾ音源とレコード音源(3種類)
各スペクトログラム画像中に、着目するシンバル、トランペット、ストリングスのパート中に夫々のピーク周波数を付記しています。 下に示す各4つのタブ(タイル)をクリックすることで、スペクトログラム画像が切り替り、比較が容易です。
タブ切替え・3機種カートリッジサウンドも添付
Point
1 シンバル・パート
| 項目 | ピーク周波数 | シンバル部・ポイント |
| ハイレゾ | 35khz | e-onkyoのハイレゾ音源では、シンバル音は30kHz付近 までで減衰しますが、MC20再生では48kHz以上まで 高域成分が確認できます。この要因は、MC20再生系の 歪(共振)が30kHz超の成分が付加されたものと考えら れます。 |
| V15 | 35khz | |
| DL103R | 42khz | |
| MC20 | 48khz以上 |
Point
2 トランペット・パート
| 項目 | ピーク周波数 | トランペット部・ポイント |
| ハイレゾ | 30khz | V15カートリッジのみ、ピーク周波数が24kHzに低下しま した。 これは、V15のスタイラスが純正ではなく、日本精 機宝石工業製「V-15TYPE3」用交換針が使用したことによ るものかもしれません。 |
| V15 | 24khz | |
| DL103R | 30khz | |
| MC20 | 30khz |
Point
3 ストリングス・パート
| 項目 | ピーク周波数 | ストリングス部・ポイント |
| ハイレゾ | 24khz | カートリッジにおいては、ハーモニクスの影響で倍音が補 完されるので、ハイレゾ音源より高域が伸びると思われま したがe-onkyoのハイレゾ音源では、24khzまでに対して 3機種のカートリッジでは16khzに低下しています。 |
| V15 | 16khz | |
| DL103R | 16khz | |
| MC20 | 16khz |
考察|シンバル音のスペクトログラムを比較して分かったこと
今回のスペクトグラム比較を通して、シンバル音の再生でこれほどにカートリッジの再生におけるピーク周波数に差が出るとは思いませんでした。 また、このピーク周波数の高さの順が、試聴評価順位(MC20>DL103R>V15)と一致している点も注目すべき結果でした。
シンバル音は、非整数倍(非調和)の共振周波数が大量に含まれる発音体です。 このため、レコード盤に記録されたシンバル音は、再生時にカートリッジ固有のコンプライアンス等の特性による共振の影響を受け、ピーク周波数はカートリッジの種類によってバラツキが生じるものと考えられます。 (一方、e-onkyoのハイレゾ音源のピーク周波数は、シンバルの実際音と同レベルと考えられます。 共振構造が無いので当然、カートリッジ音源よりもピーク周波数は低くなります)
一番顕著にピーク周波数が高かったのはMC20でした。 MC20は、「高コンプライアンス・軽量振動系」という特長があり、その結果としてシンバルの過渡応答や空間表現が優れており、その副産物としてFFTでは48 kHz近辺まで成分が観測されたものと思われます。
DL-103Rは、放送用途をルーツとする103系の発展型のカートリッジです。 特長としては、 中低域の充実感、 安定したトレースに重点が置かれ、「50 kHzまでフラット」を狙った設計で無く、超高域の伸びが控えめでMC20より周波数のピークレベルが低くなったものと思われます。
V15-Ⅲは、もともと高コンプライアンス設計ですが、スタイラスを日本精機宝石工業製「V-15TYPE3」用交換針に交換したために、周波数のピークレベルが最も低くなったものかもしれません。
まとめると、シンバル音のスペクトログラムのピーク周波数の結果から、3機種のカートリッジは、以下の様な「機械共振の位置」が影響していると考えられます。
- MC20:機械共振が高い
- DL-103R:中間
- V15 :スタイラス交換で機械共振が低下か?
今回の結果から、カートリッジの音質を評価する上で、聴感に頼るだけでなく、シンバル音のスペクトログラムを活用することで、オーディオに対する定性的評価になり得るものでないかと思いました。



