今更ながら、「我が家のB級プレーヤ」に取り付けた「DL103Rカートリッジのクロストーク(セパレーション)をテストレコード(AD-1 2面のバンド4:基準レベル、1kHz、3.54cm/sec(尖頭値)、左チャネル)でチェックしたところ、図の様に右chへの漏れ量(クロストーク)が-21dbになっていて、DL103R仕様の「-25db(1khz)以上」より悪化していることが分かりました。
逆に左chのクロストークの方は-30db以上あり、左右chのクロストーク量がアンバランスになっていました。 この悪化要因はどこにあるのか、先ずはレコード再生方式の「45−45ステレオ」の原理を通してクロストークの発生要因と改善策を想定し、次回のブログ記事で「クロストーク改善編」につなげて行きたいと思います。
レコード再生する上でクロストーク(左右分離度)が少ないにこしたことはありませんが、45-45ステレオの構造上、一本の針で、左右チャンネルを分離するのですから、クロストークを抑えることは構造的に厳しそうですね。 一般的なクロストークレベルは、安価なプレーヤの実力で-20db前後、ハイクラスで、-30db以上と言われています。
クロストークが悪化すると、左右の音の分離が不十分になりますので、徐々に音像の位置がぼやけて、立体感が無くなってくることが想像に難くないです。
一方、CDなどのデジタル録音では、当然クロストークは原理的に皆無ですので、この点に対してレコードとの優位性をCD派は、主張するわけです。 ただし、後述しますがクロストークしている信号の位相は、逆相になり、実質的に音像位置のぼやけは気にしなくても良いのではないかも知れません。
45/45方式のステレオ再生の原理
現在のステレオ再生方式は、45/45方式のステレオ方式になっています。 ステレオ再生の理解としては、レコードのV溝に彫られたLchとRchの凹凸を針がトレースすることで針が振動し、この振動をカンチレバーを介してLch用とRch用の2つのトランスジューサーで電圧に変換しステレオ再生していると漠然と思っていましたが、これは大きな間違いであることに気付きました。
ここで、記録されたレコード溝の断面(オーディオテクニカサイトからの引用)を見てください。

よく考えて見ると、例えば、図の左右逆位相の場合、針先は、水平方向の振動が打ち消しあってゼロになり針先の振動を伝えるカンチレバーは上下振動だけです。 トランスジューサーが2つのL-R用では、その出力がゼロになって、これではステレオ再生ができない事になります。 それでは どうやって一本の針でLとRを分離できるか? ネットでググっても、イマイチ、明快な答えが見当たらず、ネットでの断片的な情報と照らし合わせ解釈を試みました。
解釈した結果は、針先の振動をカンチレバーを介して少なくとも水平成分と2つの垂直成分(正相と逆相)を検出する3つのトランスジューサーを使い、マトリクス原理でLとRに分離します。 これが45-45ステレオの肝です。 マトリクス原理については、以下「45/45方式のステレオ マトリクス原理」の引用を参照してください。
「45/45方式のステレオ再生方式」について最も参考になった引用先URL
http://www7a.biglobe.ne.jp/~yosh/jvc_cutter.htm
下図のVertical coilはそれぞれ右巻きと左巻きになっています(磁気回路の磁力線の方向に注目:同方向の巻き方では垂直溝で同相になってしまう)。
マトリックスの原理は以下の通りです:
45/45方式のステレオでは 水平信号H=L+R 垂直信号V=L-R なので、コイル1とコイル3の出力電圧の和(水平信号と垂直信号の和)はH+V=L+R+L-R=2Lとなって45の左信号になり、
コイル1とコイル2の出力電圧の和(水平信号と垂直信号の差)はH-V=L+R-(L-R)=2Rとなって45の右信号になる。

では、実際にケースバイケースでどの様にマトリクス原理からLch、Rchに分離されるか見てみます。
• V溝の右側のみ記録されている場合 L=0なので
Lch出力=H+V=(0+R)+(0-R)=0
Rch出力=H-V=(0+R)-(0-R)=2R
• V溝の両側に同相で記録されている場合
Lch出力=H+V=(L+R)+(L-R)=2L
Rch出力=H-V=(L+R)-(L-R)=2R
• V溝の両側に逆相で記録されている場合
Lch出力=H+V=((-L)+(-R))+((-L)- (-R )) = -2L
Rch出力=H-V=((-L)+(-R))-((-L)- (-R))= - 2R
以上の様に、レコードのV溝に記録されたL成分とR成分をレコード針を介し、3つのトランスジューサで、水平方向信号と垂直方向信号に分けて、マトリクス原理が構成される様に結線されたカートリッジから正確にLchとRchの信号に分離され出力されます。
「45/45方式のステレオ再生」は、シンプルなカートリッジ構造でステレオに分離できて、実に巧妙ですね!! 先人の独創性に感動を覚えます。
クロストークについて
では、次に、クロストークが生じる要因を考えて行きます。
「45/45方式のステレオ再生」おいて、レコード面と針先は垂直である必要がありますが、もし、針先が図の様に左に傾くと、どうなるでしょうか? 図のようにV溝にLchのみ信号が記録されている場合にRchへのクロストーク量を想定してみます。
針先が傾いている分、垂直成分が大きくなり、その成分をΔxとします。 一方、針先が傾いても水平成分は変わらないと思われます。
つまり、垂直成分にΔxが加味されるので垂直信号V=(L+Δx)-Rとなり、水平成分は変わらないので、H=L+Rです。
よって、Lch音が記録され、Rchは無音の場合、Rはゼロなのでマトリクス原理から、
Lch出力=H+V=(L+0)+((L+Δx)-0)= 2L+Δx
Rch出力=H-L=(L+0)ー((L+Δx)-0)= -Δx(面白いことに、Δx は逆相になっています。)
※ 以上から、針先が傾くと垂直成分Δxのクロストークが生じることが分かります。
以上の想定に対して、実際はどうなのか?、ネットで調べたら、「株式会社ナスペック」のサイトに、カートリッジの傾きとクロストークの関係データが載っており、やはり、針先が傾くとクロストークが悪化することが分かりました。 以下の引用を参照ください。
引用先URL
http://naspecaudio.com/goldring-mm/mc-cartridge-e-series/上記グラフはE3カートリッジのクロストーク特性のグラフです。 アジマス値に対するクロストークの変化を表しています。アジマスの最適角度は、表中の赤線と緑線が交わる値であり、これは同時にクロストーク値(青線)が最小となる値でもあります。
DL103Rカートリッジのアジマス
我が家のB級レコードプレーヤにマウントしているDL103Rカートリッジのアジマス(方位角)を調べるために、ターンテーブルに鏡を置いて、レコード面とカートリッジとの角度を調べてみました。
DL103Rの良いところは、カートリッジの前面に基準線が表示されています。 鏡に写った基準線が一直線上に合えば、アジマスの最適角度(レコード面と垂直)になっていることになります。 実際は、写真の様に右方向に約2°ほどズレていることが分かりました。
鏡に針先を載せる時は、針にストレスを与えないように針圧を0.5g程度に軽くして、インサイドフォースキャンセラーは0gにする様に注意しましょう。
この針先の傾きがあるために、テストレコード(AD-1 2面のバンド4:基準レベル、1kHz、3.54cm/sec(尖頭値)、左チャネル)の場合は、Rchのクロストークが悪化し、逆に、テストレコード(AD-1 2面のバンド5:基準レベル、1kHz、3.54cm/sec(尖頭値)、右チャネル)ではLchのクロストークが良化しているものと思います。 この結果は、前記で想定した結果と合致しています。
クロストークの改善策(案)
アジマス調整は、ヘッドシェルが左右に回転できるものであれば、簡単に調整できますが、我が家のB級プレーヤでは、それができません。 仕方がないので、ヘッドシェルとカートリッジの間に、図の様にスペーサを挿入して、アジマス調整することにしました。
DL103Rカートリッジを左方向に約2°回転させるために、DL103Rの横幅(15mm)からスペーサの厚みは、約0.5mmほど必要ですが、実際にはテストレコードでクロストーク量をチェックしながらアジマス調整することにします。
以上が、カートリッジ DL103Rのクロストーク「 原理編」でした。
「クロストーク改善編」に続きます。