
ストリングスのスペクトログラム表示
CD音源で再生したストリングスの音に、どこか物足りなさや違和感を感じたことはないでしょうか。 少なくとも筆者は、同じ楽曲であってもLPレコードの方が自然で豊かな響きに感じることが多々あります。
この疑問にアプローチするため、下記に示す過去の評価記事ではストリングスの音に着目し、「 同一録音由来の”Beethoven交響曲8番”のハイレゾ音源、CD音源、LPレコード(デジタイズ)音源の音質比較」を行いました。 その際の試聴評価は、LPレコード > ハイレゾ > CD という順位でした。 しかし、スペクトル解析による検証では決定的な違いを見いだせず、明確な結論には至りませんでした。
そこで今回は方法を変え、3種類の音源について、Spectrogram Viewerショートカットツール(詳細はここをクリック)を用いてスペクトログラム上の音像を比較し、とくにストリングスの音像や倍音の現れ方に違いが見られるのかを検証してみます。
果たして、試聴した評価順位の違いがスペクトログラム上で捉えられるのでしょうか? 本記事では、その結果を考察していきます。
過去の評価記事(2017年)
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参 照Beethoven ”交響曲8番”第2楽章 ハイレゾ、CD及びLPレコード(ハイレコ)のトリプル音源・音質比較
カラヤン指揮・Beethoven ”交響曲8番”第2楽章 イエス・キリスト教会での1962年録音をベースにした、e-onkyoのハイレゾ音源、CD音源、LPレコードからのハイレコ音源のトリプル音源の音 ...
スペクトログラムで見るストリングスの音像とは(予備知識)
バイオリン・ソロの場合
バイオリンの巨匠:グリュミオーが弾く「ヘンデル バイオリン・ソナタ 第4番 第1楽章」の部分をスペクトログラムで表示してみました。
バイオリンの音は理想的にはノコギリ波に近く、基本周波数 f_0 と多数の倍音 n f_0 を含みます。 スペクトログラムで観察すると、ビブラートをかけない場合、各倍音は水平なストライプ状の直線として表示されます。 一方、ビブラート(基音の周波数変動幅 Δf が約5~8 Hz程度)をかけると、上の画像で示す様に各倍音は、ビブラート周波数(Δf)が周期的に変化するため、スペクトログラム上では正弦波状に蛇行する模様として現れます。 また、高次倍音ほどビブラートの見かけ上の上下振幅が大きくなります。 この要因は、ビブラートを周波数変調として考えた場合、n次倍音の周波数偏移量が nΔfとなるためです。
ストリングスの場合
「カラヤン指揮・Beethoven ”交響曲8番”第2楽章 イエス・キリスト教会での1962年録音」のストリングス部分をスペクトログラムで表示してみました。
ストリングスの音色は、多数の奏者によるわずかに異なるビブラートやピッチ変動が重なり合うことで形成されます。 スペクトログラム上では、各ストリングスの倍音が細い線ではなく帯状あるいは毛羽立った構造として観察されます。 これは、同じ倍音成分が奏者ごとにわずかに異なるビブラート周波数(Δf)に分散しているためで、聴感上では柔らかさ、温かさ、滑らかさが生まれ、しばしば「ベルベットのような」「ビロードのような」音色と表現されることもあります。
3種類の音源をスペクトログラムで比較する
音質評価対象として、”Beethoven交響曲8番”第2楽章 を選んだ理由は、ストリングスのパートが豊富で、ストリングスの音色評価を行うのに最適と思われたからです。 以下の条件で、スペクトログラム表示を行います。
表示条件
- サンプリング周波数(fc):44.1khzに統一
スペクトログラム縦軸の上限周波数をCD音源のナイキスト周波数(22.05khz)に合わせるため、ハイレゾ音源とレコードからのデジタイズ音源を、「Apple Digital Mastersドロップレットツール」で、44.1khzにダウンサンプリングして評価します。 - 分析時間:1分付近から5秒間
ストリングスパートに比較的強音部が存在する冒頭から約1分経過した地点における5秒間のスペクトログラムを表示します。
- 着目するストリングスの音像部分を白枠で囲む
音源
1 ハイレゾ音源ファイル
e-onkyoの「ベートーヴェン: 交響曲全集」の中から「交響曲8番 第2楽章」を購入ダウンロードしました。 ファイルフォーマットは、24bit 96khzのflacファイルです。 また、「独Emil Berliner Studios制作2003年DSDマスター使用」とのことでした。
注記: 「e-onkyo music」は、2024年10月16日の正午に20年近い歴史に幕を下ろし、「Qobuz(コバズ)」に統合されました。特徴的なポイント
- ストリングスの倍音が20.8khz付近で消滅している。
- バックグラウンドのノイズは、ナイキスト周波数まで存在している。
- 倍音内の模様はCD音源と近似している。
音源
2 CD音源ファイル
「クラシック音楽へのおさそい~BlueSkyLabel~」のflacデータベースを使用させて頂きました。 ファイルフォーマットは、16bit 44.1khzのflacファイルです。
特徴的なポイント
- ストリングスの倍音が19.6khz付近で消滅している。
- バックグラウンドのノイズは、20.2khzまで存在している。
- 倍音内の模様はハイレゾ音源と近似している。
音源
3 LPレコードから収録したデジタイズ音源
DENON DL -103RカートリッジでLPレコードから、GT40αでAD変換しVinylStudioでハイレゾフォーマット24bit 96khzで録音し、プチノイズ抑制処理をしています。
カラヤン指揮・Beethoven ”交響曲8番”第2楽章 イエス・キリスト教会での1962年録音
AAC 48khz 320kbps
特徴的なポイント
- ストリングスの倍音がナイキスト周波数まで存在している。
- 倍音内の模様は、他の音源と比べて密度が濃い
スペクトログラムから見えた音質差【マトメと考察】
- CD音源とハイレゾ音源の倍音部のスペクトログラムは非常によく似ており、音の基本的な構造に大きな違いは見られなかった。
- ストリングスの倍音成分は、CD音源が約19.6kHz、ハイレゾ音源が約20.8kHz付近で消滅しており、ハイレゾの方がより広帯域な情報を保持していることが確認できた。
- LPレコード(デジタイズ)音源では、倍音成分がナイキスト周波数付近まで存在し、さらに倍音内部の模様も他の音源より密度が高く観測された。 この点から、LPレコードで観測された倍音の増加は、マスター音源の鮮度の違いというより、レコード再生系やカートリッジ(DL-103R)による高調波歪みや付帯音が加わった結果である可能性が高いと考えられる。
以上から、試聴評価において「LPレコード > ハイレゾ > CD」という順位結果となったのは、LPレコードにおける再生系の歪によって付加された倍音成分が音楽的な魅力として優位に作用したこと、次にハイレゾ音源がCD音源よりも広帯域な倍音情報を保持していたことで試聴評価の順位に繋がったものと考えられます。
ココがおすすめ
「再生系の歪によって付加された倍音成分が音楽的な魅力」については、下の記事で詳しく説明しています。
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